炎に焼かれて


【詳細】*こちらのシナリオには殺人のシーンがございますご注意ください

比率:男1:女2(兼ね役あり)

サスペンス・ホラー・ラブストーリー

時間:約20分~25分


【あらすじ】

夏祭りの日。

あなたは仲が良い友人たちと、「神社の裏手にある林の祠まで行って戻って来る」という肝試しをしています。

いろんな噂がささやかれている林の祠。

興味半分、恐怖半分で祠まで辿り着いたあなた。

あなたはそこで一人の女性と出会います。

その女性はこの場所で起きた事件について詳しく知っているそうです。

女性が語りだす、この場所で起きた惨劇とは……

*こちらのシナリオには人間が殺されるシーンがございます。苦手は方はご注意ください。


【登場人物】

ハル/女:身体が弱い女性。

     キヨと武雄とは幼馴染。

     幼い頃から武雄のことが好きだった。

     *口調は違いますが、女と同一人物です


 武雄 :真面目な男性。

    キヨとハルとは幼馴染。

     幼い頃からハルのことが好きだった。


 キヨ :明るくて活発な女性。

     ハルと武雄とは幼馴染。


●夏祭りが行われている神社の裏の林・現代

   あなたが恐る恐る林の祠まで行くと小さな祠の前に着物姿の女が立っている


女 :おや? どうされました?

こんな時間にここに一人で来るなんて……お祭りの会場はあちらですよ

え? 肝試しをさせられた?

(苦笑しながら)あぁ、あなたもですか……

えぇ、毎年、この日になると必ずと言っていいほど肝試しをさせられる方がいらっしゃるんですよ

あなたはご存知ですか? この場所の噂

あら、知らないのですか?

友だちに無理矢理ここに連れてこられたから仕方がない?

そうであれば、そうですよね。でも、ここはとても危険な場所なんですよ?

なにせ、その昔、人が三人も死んだとされる場所ですからね……

え? じゃあ、どうしてそんな危険な場所に私がいるのか?

(微笑んで)鋭いですね。私が何故ここにいるのかは……秘密です

そうだ! お時間があるのであれば少し私の話を聞いていきませんか?

ここで起こった事件をお教えしますよ

あら、目が輝いていらっしゃる。こういうお話、お好きなんですね?

えぇ、あなたの顔を見ていたらわかります

では、よかったらそこの大きな岩に座ってくださいな。立ったままでお話なんて疲れますから

どこからお話しましょう……

(怪しく微笑み小さく)時間はいくらでもありますからね



●ハルの部屋・昼・過去

   ベットに背を預け座るハル。横には椅子に座っているキヨがいる。


キヨ:へっ? 想いを告げられた?

ハル:キ、キヨちゃん。声が大きいよ

キヨ:あぁ、ごめんごめん。いや、急なことでびっくりしちゃって……

ハル:そうだよね。私も驚いてるもん

キヨ:で? ちなみにお相手は……?

ハル:……武雄さん……

キヨ:うそ!


   ドアをノックする音。

   ドアが開き、武雄が入って来る。


武雄:うるさいぞ、キヨ。外までお前の声が聞こえていた

キヨ:う、うるさいわね! 仕方ないでしょ! 今、ハルからびっくりする報告をされたんだから

ハル:キ、キヨちゃん、ごめんね

武雄:ハルが謝る必要なんてないだろう

キヨ:ちょっと、それは私の台詞!

武雄:はぁ? 誰が言っても同じだろう?

キヨ:違うわよ!

武雄:わかったわかった。それよりも、少し静かにしろよ? ハルの身体に障るだろ

キヨ:……

武雄:ハル、今日の体調はどうだい?

ハル:大丈夫。武雄さん、今日も来てくれてありがとう

武雄:お礼なんていいよ。俺がハルに会いたかったんだから

ハル:(嬉しそうに)……武雄さん

キヨ:そうよそうよ。こいつにお礼なんて必要ないわよ

武雄:おい!

キヨ:なによ!

ハル:もう、ふたりとも、喧嘩は止め……(せき込む)

キヨ:ハル!

武雄:ハル、大丈夫か?

ハル:(ゆっくり息をしながら)だ、大丈夫だよ。ごめんね、心配をかけちゃって……

武雄:今日の分の薬は?

ハル:まだ。ちょっと早いから……

武雄:でも、飲んでも大丈夫な時間だろう

ハル:うん

武雄:じゃあ、飲もう。水、持ってくる

ハル:そんな……大丈夫だよ?

武雄:ハルの大丈夫は昔から大丈夫じゃないからな。なぁ、キヨ

キヨ:確かにね

ハル:もう、キヨちゃんまで……

キヨ:大事をとることにこしたことはないよ!

ハル:そうだね。うん、わかった

キヨ:よし! そうと決まれば……ほら、武雄、さっさと水持ってきて!

武雄:お前が言うな! まったく……俺が戻って来るまで、ちゃんとハルのこと看といてくれな

キヨ:もちろん! それこそ、あんたが言うな!

武雄:はいはい


   武雄、部屋から出ていく。


キヨ:ほぅほぅ、前にも増して過保護になってるな~

ハル:もう、キヨちゃんったら……

キヨ:でも、良かったね

ハル:え?

キヨ:ずっと好きだったんでしょ? あいつのこと

ハル:えっ! キヨちゃん、気付いてたの?

キヨ:もちのろんよ!

ハル:どうしよう……恥ずかしい……

キヨ:あぁ、大丈夫だよ! わかりやすかったってわけじゃなくて、なんとなくそうかなって……

ハル:本当に?

キヨ:うん! 本当、本当!

ハル:(ほっと息をついて)よかった

キヨ:だから、おめでとう

ハル:ありがとう。でも……

キヨ:でも?

ハル:……不安なの……

キヨ:不安?

ハル:本当に私でいいのかなって……

キヨ:え?

ハル:私みたいに身体が弱い女で武雄さんの妻がちゃんと務まるのかなって……

キヨ:(ハルの手を握り)大丈夫だよ!

ハル:キヨちゃん?

キヨ:だって、あいつが好きだって思ってハルを選んだんだ。だから、胸を張ればいい!

ハル:……うん!

キヨ:いい返事! あ、そうだ! 結婚式は和装にするの? それとも洋装?

ハル:キ、キヨちゃん? そんな、まだ早いよ!

キヨ:早いってことはないでしょ。決めといて損はないでしょ!

ハル:そ、そうだけど……


   ドアをノックする音。

   ドアが開き、水を片手に持った武雄が入って来る。


武雄:水、持って……

キヨ:(遮って)あ、武雄! 武雄もそう思うよね!

武雄:は? 急にどうした?

ハル:ちょ、ちょっと、キヨちゃん!

キヨ:二人の結婚式は、和装がいいか洋装がいいかって話!

武雄:なっ!

キヨ:おーおー、武雄も赤くなったな~

ハル:キヨちゃん、からかわないで!

武雄:そ、そうだぞ!

キヨ:からかってなんてないよ。だって、私の大切な幼馴染たちの結婚式だもん。楽しみで仕方ないでしょ!

ハル:……キヨちゃん。ありがとう

武雄:あ、ありがとな……

キヨ:いいえ~。まぁ、洋装でも和装でも、武雄は浮きそうだけどね

武雄:おい!


   三人、楽しそうに笑う。



●祠の前・現代


女 :ここで亡くなったと言われる人たちはこんな人たちだったそうですよ

えぇ、とても仲の良い三人組でした。幼い頃から一緒に育ってきて、近所でもとても評判のいい幼馴染だったそうです

あら? どうしました?

かわいそう? 誰が? 

この三人が?

……本当にそうかしら? 

とても仲が良かった三人。でも、それは周りが言うように本当に仲が良かったのか……

えぇ、この三人の関係はある出来事がきっかけで急変してしまうの

(微笑んで)続きが気になる? 

じゃあ、教えてあげましょう。この三人に何が起こったのか……



●ハルの家・昼・過去

   ハルの部屋から出てくる武雄。


キヨ:ん? おぉ、武雄!

武雄:……キヨ、お前も来てたのか……

キヨ:うん、ついさっき。それで、暗い顔してどうしたの? って、お前、手! 怪我してる!

武雄:……あぁ……

キヨ:なにしたの?

武雄:……キヨ、お前、まだ何も聞いてないのか?

キヨ:え?

武雄:……キヨ、今日は帰った方がいい……

キヨ:え? どういうこと?

武雄:……当分、ハルには会わない方がいい……

キヨ:何で?

武雄:……

キヨ:ちょっと! 黙ってないで説明してよ!

武雄:……ハルは今、俺たちのこと、憎んでる……

キヨ:え? 何で?

武雄:……

キヨ:雄、ねぇ、何で!

武雄:……俺とお前が結婚することになったからだ……

キヨ:はぁ?

武雄:俺の親父の事業が傾きかけてな。それをお前の親父さんが助けてくれるらしいんだ

キヨ:それで?

武雄:その代わり、俺を婿養子にと

キヨ:はぁ?

武雄:お前の家、男がいないから後継者を捜さないといけないんだろ? だから……

キヨ:あの、クソ親父! まだ武雄のこと諦めてなかったの!

武雄:俺は次男坊だ。親父も二つ返事で承諾したらしい

キヨ:っ!

武雄:……今日はそれをハルに伝えに来た。そうしたら、この様だ……

キヨ:この様って……

武雄:花瓶が飛んできてな……出ていけとすごい剣幕で怒鳴られたよ……あんなハル、見たことがない……

キヨ:……ハル……

武雄:だから、今は危険だ。きっと時間が解決してくれる。ハルも、きっとわかって……

キヨ:(遮って)武雄はそれでいいの?

武雄:え?

キヨ:武雄のハルに対する気持ちはその程度だったの? 親にどうこうされたくらいで揺らぐような半端な気持ちだったの?

武雄:そんなことは!

キヨ:だったら、男みせなさいよ!

武雄:はぁ?

キヨ:ハルのこと、好きなんでしょ!

武雄:好きだよ!

キヨ:よし! じゃあ、ちょっとこっち来て!

武雄:はぁ?

キヨ:私に良い考えがあるから!

武雄:お、おい! 引っ張るなよ!


   去る二人。その後ろ姿を見つめるハル。


ハル:……好き……、武雄さんは、キヨちゃんのことが好き……嘘つき……キヨちゃんも、武雄さんも……絶対に許さない……



●祠の前・現代


女 :こんなことがあったせいで、仲が良かった三人組はダメになってしまった。悲しいわよね

ん? そうですね、時代が時代だから仕様がない。そうとも言える

でも、身体の弱い女にとっては信じていた二人に裏切られた気がして、絶望しかなかった

絶望の中で女はこの祠に祈った。二人を不幸にしてください、と

どうしてこの祠に祈ったのか? 

それは、神に縋るしかないと思ったとき、彼女の頭の中にここしか浮かばなかったから

幼い時に三人で遊んでいた神社の裏手にあるここしか

神社の裏手の祠だったのは、少なからず後ろめたい気持ちがあったからでしょう

他人の不幸を祈るなんて、と

毎日この祠に祈るうちに彼女には神の声が聞こえた気がしたそうです

「夏祭りの夜に……」と。だから、ここで、殺人事件が起きてしまった……

(微笑んで)おや、ことの顛末が聞きたくて仕方がないって顔

聞く覚悟は出来ていますか?

そうですか。ならば、お話しましょう……



●夏祭りが行われている神社の裏の林の祠・夜・過去

   祠の前に佇むハル。ハルを見つけてキヨが少し遠くから走って来る。


キヨ:(少し息を切らして)……ハル!

ハル:……あ、キヨちゃん……

キヨ:ハル、どうしてこんなところにいるの? 身体は?

ハル:……身体? 大丈夫だよ? 今、すっごく気分がいいの……

キヨ:ハ、ハル?

ハル:キヨちゃん、最近、どうして会いに来てくれないの?

キヨ:そ、それは……

ハル:(微笑んで)私、知ってるよ?

キヨ:……

ハル:でも、これは、キヨちゃんが悪いんじゃないんだよね?

キヨ:……ハル……

ハル:今日は武雄さんと来てるの?

キヨ:そうだよ。ハルが屋敷からいなくなったって聞いたから、二人でハルを捜しに……

ハル:へぇ……二人でお祭りに……

キヨ:ハル?

ハル:ねぇ、キヨちゃん、私、ちょっと疲れちゃった

キヨ:え?

ハル:だから、前みたいに手を引いてもらえないかな?

キヨ:ハル

ハル:ダメかな?

キヨ:ううん、いいよ

ハル:小さい頃もこんなことあったよね。夏祭りで私が迷子になって、一人で泣いていたらキヨちゃんがこうやって捜しに来てくれて……

キヨ:そうだね。そんなこともあったね

ハル:また三人で夏祭りに来たかったなぁ

キヨ:(微笑んで)じゃあ、この後、武雄と合流して一緒に回ろう

ハル:いいの?

キヨ:もちろん! あ、でもハルの身体の様子見ながらね

ハル:うん!

キヨ:よし、じゃあ、行こう!


   キヨ、ハルに近づく。


キヨ:ハル、大丈夫? ゆっくり行こうか

ハル:うん、キヨちゃん! ……さようなら


   ハル、キヨの腹に刃物を刺す。


キヨ:……え?

ハル:ずっと一番の友だちだと思ってたのに……裏切るのが悪いんだよ?

キヨ:ハ、ハル……?

ハル:ずっと気が付かなくてごめんね。二人が想い合ってたなんて知らなかったんだ

キヨ:ハル、ちが……う……

ハル:違わないよね? だって、あの時、廊下で好きって、武雄さん言ってたもの……

キヨ:違っ! あれは!

ハル:だから、二人そろって殺してあげるね。二人で仲良く地獄で結婚式でもして?

キヨ:ハ、ハルっ!


   ハル、キヨの首筋を切る。


キヨ:あぁぁぁぁぁぁ

ハル:……さようなら

武雄:(遠くで)キヨ? そこにハルが見つかったのか~!

ハル:(舌打ち)

武雄:キヨ? ハル! こんな所にいたのか! 捜してたんだぞ?


   武雄、ハルの姿が見え、走り寄ろうとする。


ハル:キヨちゃん! キヨちゃん、目を開けて!

武雄:ハル? っ! キヨ、どうしたんだ!

ハル:わからないの、急に変な男が現れてキヨちゃんのこと刺したの!

武雄:そんな! キヨ、おい、キヨ!

ハル:……

武雄:ダメだ……もう……

ハル:……

武雄:とりあえず、人を……え?(腹部に刃物が刺さっている)

ハル:……さようなら、武雄さん

武雄:え? ハル?

ハル:私、一人で浮かれてた。ずっと好きだった人に好きって言ってもらえて、結婚も出来るかもって……

でも、本当は違ったんだね。嬉しくて浮かれてたのは私だけだった……二人はそんな私を見て嘲笑ってたんでしょ?

武雄:ハル? なん……で……

ハル:あの日。私に別れを告げに来た日。二人の廊下での会話聞いちゃったの

武雄:廊下?

ハル:……武雄さん、キヨちゃんに好きだって言ってた……

武雄:あっ! あれは……

ハル:ねぇ、私の身体が弱くなかったら私のこと見てくれてた? 私を選んでくれてた?

武雄:……ハル……あれは、誤解だ……俺が好きなのは、ハルだ……

ハル:嘘!

武雄:……嘘じゃない……

ハル:……最後まで、キヨちゃんをかばうんだね……

武雄:え?

ハル:武雄さんのことは助けようかなって思ったけど、やっぱり無理

武雄:……ハ……ル……?

ハル:さようなら、武雄さん



●祠の前・現代


女 :これが、この祠の前で起こった悲しい出来事の全容

そう、ちょうどあなたの座ってる岩のあたりで二人の遺体は見つかった

あら、そんなに慌てて立ち上がると怪我をしますよ?

え? それで、その後、その女はどうなったのかって?

彼女は逮捕され牢の中で自殺しました

何で自殺したのかって?

それはね、彼女が自分の勘違いに気が付いてしまったから

あの日、殺してしまった二人は本当は自分のために動いてくれていたこと。最終的には駆け落ちまで視野に入れていてくれたこと。絶望しか感じていなかった彼女は気が付くことが出来なかった

だから、今でも凄く悔やんでいるんです……あの時、殺してしまってごめんなさいって

そして、あの現場に留まてずっと探している

何をって?

(微笑む)それはね、殺してしまった二人の魂が新たに入れるであろう器を。生きてる人間を捜しているの

どうしました? 顔色が悪いですよ?

あぁ、あなたにはもしかして見えるの? 珍しい……

これも、夏祭りの日だから? それとも、あなたが器として相応しいから?

ねぇ、あなたの目にはどう映っています? 

私がずっとこの地に縛っている、キヨちゃんと武雄さんのこと……




武雄:これは、悲しい恋のお話

キヨ:嫉妬の炎に焼かれ、自分を見失った女の話

ハル:時代が変わっても、私たちはずっと友だちよ。もう一度、やり直しましょう?


―幕―




2021.07.24 ボイコネにて投稿 『夏の六連花』参加シナリオ #ろくれんシナリオ

2022.07.14 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

紅く色づく季節

こちらは紅山楓のシナリオを投稿しております。 ご使用の際は、『シナリオの使用について』をお読みくださいませ。 どうぞ、よろしくお願いいたします!

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