少し遅く起きた朝


【詳細】

比率:女1

現代・ラブストーリー

時間:約10分


【あらすじ】

明日がお休みだから彼の家にお泊りに来た貴女。

次の日の朝は、ちょっとだけ起きるのが遅くて……


*こちらは、『少し早く起きた朝』の彼女視点のお話です。

 こちらだけでもお読みいただけます。


【登場人物】

あなた:彼の家にお泊りに来た女性。



●彼氏の家・寝室


あなた:

「ん……」


朝、カーテンの隙間から入って来る光で目が覚める

まぶしいのが嫌で瞼にギュッと力を入れながら寝返りを打ち、いつも隣にあるぬくもりを求めて手を伸ばす


「……あれ?」


ぬくもりを求めて伸ばした手が得られたのは、冷たいシーツの感触と隣にある空虚だった

まだ重たい瞼をそっと開けると、そこに寝ているはずの恋人はいない

そのまま視線だけを枕元の時計に向ける

時間はちょうど彼が家を出る時間の一時間後を指していた


「はぁ……」


今日こそは、彼の起きる時間よりも早く起きて朝ごはんを作って、おはようって彼を起こすはずだったのに……


「今日も失敗か……」


これで何回目の失敗だろうか

自分の朝の寝起きの悪さに苦笑する

もちろん、いつも寝坊しているわけじゃない

彼の家に来ると決まって寝坊してしまうのだ

自分の家ならスッと起きられる

なんなら起きる予定時間の三十分前には自然と目が覚めて、目覚ましのお世話になることの方が少ない

それなのに、彼の家に来る度に寝坊するのは……


「絶対にこいつのせいだ」


もう冷たくなってしまってはいるが、彼の香りがまだ残っている枕にボスっと顔を埋める

不思議だ

ただこうしているだけなのに、彼の香りに包まれるとギュッとあの優しい腕に抱きしめられているように錯覚してしまう

しかも、彼の苦笑が聞こえてくる気さえしてしまうのだ

『もう、仕方ないな』なんて言葉つきで


「うん、重症だな……」


絶対に彼には言わないけれど、私はこれだけで幸せになってしまうんだ。

      

「はぁ……それでもやっぱり起きられるようになりたい」

      

朝起きて、一緒にご飯食べて、いってらっしゃいの挨拶をして……

そんな朝を一回でいいから過ごしてみたい

やっぱり、ここに来る回数を増やして慣れるべきか

合鍵ももらってるし、いつでも来ていいよって言ってくれている

でも、次の日が休みじゃないと私はここには来られない

そんな勇気はない

それは、私の職場からこの家が遠いというのもあるが、それ以上に……

      

「睡眠時間って大事だよね」

      

優しい彼が唯一意地悪になる時間

この家に来るとその時間はどう頑張っても回避することはできない

いや、私が拒否すれば無理強いされることは決してないだろう

でも、私には拒否することなんてできない

だって、彼が私だけに見せてくれるあの表情が好きで、今彼のこの表所を独占出来ているのは私だけなんだと嬉しくなってしまう

こんなに誰かを独り占めできることが嬉しいなんて、彼に会うまで知らなかった感情だ


「一緒に住んだらどうなるんだろうか……」


怖いような、嬉しいような……よくはわからないけど嫌ではない感覚が心を満たす

      

「さて、そろそろ起きるか……」

      

ちょっと名残惜しい気もするが、ずっと寝ているわけにはいかない

このままだらだらしていたら、本当にだらだらするだけで一日が終わってしまう

すっかり目が覚めて軽くなった意識と共に身体をゆっくりと起こしリビングへと向かう



●リビング

あなた:

「あ……」

      

リビングに行くといつも通りテーブルにラップのかかった朝食が乗っていた

こういうところに彼の愛情を感じてしまう

普段、自分の食に関して無関心な私は食事を忘れるなんてざらだ

それを知っている彼は必ず私の食を心配してくれて、いつの間にか食の管理までしてくれるようになった


「いいって言ってるのに」

      

口からは悪態が零れてしまうけど、口角が自然と緩んでいくのが分かる

      

「ん?」

      

今日はいつもと違って朝食の上にメモが乗っていた


「『おはよう。昨日は無理させちゃってごめんね

いつも一緒に朝ごはん食べたいって言ってるけど、気持ちよさそうに寝いていたので起こしませんでした

今日はお休みだよね? 家のこととかやらなくていいから、ゆっくりしてて

あ、でもお昼はちゃんと食べること。夕飯は一緒に食べようね

帰りはちゃんと送っていくから、安心して

じゃあ、いってきます。愛してるよ』

……相変わらず綺麗な字だこと」


彼の気遣いとメモに込められた愛情に胸が温かくなる

流石、私の行動予定はお見通しか


「でも、一個だけ違うんだよな~」


彼のメモのいつも通りの『送っていく』の言葉にニヤニヤしてしまう

きっと今の自分の顔はいたずらをする子どもの顔をしているだろう

彼には言っていないこと

びっくりさせようと思ってまだ教えていない事実


「私、明日も休みなんだよね~」


今日彼が帰ってきたらどのタイミングで知らせようか

自分でも意地が悪いと思うが、彼のあの表情が好きなのだ

『送っていくよ』と家の鍵を手にしてちょっと寂しそうに微笑む顔が

そんな些細な表情に込められた愛情が嬉しいのだ

      

「早く帰ってこないかな~」

      

それまで、今日は何をしてようか

洗濯物をして、アイロンをかけて、常備食でも作ろうかな

なら、その前に冷蔵庫を開けて、中身を確認しなきゃ

      

いつもより遅く起きた朝

彼と一緒に朝食を食べることはできなかったけれど、とても幸せな気持ちに包まれる

そんな幸せな朝



―幕―




2020.09.04 ボイコネにて投稿

2022.08.09 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)


紅く色づく季節

こちらは紅山楓のシナリオを投稿しております。 ご使用の際は、『シナリオの使用について』をお読みくださいませ。 どうぞ、よろしくお願いいたします!

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