【詳細】
比率:男1
現代・日常・ラブストーリー
時間:約5分
【あらすじ】
夜。
閉店作業中の大輔。
いつもだったらこんなに締め作業に時間なんてかからないのに……
今日は考え事をしてしまって仕事の効率が落ちてしまう。
「店長の夢ってなんですか?」
アルバイトの子に投げかけられた言葉。
俺の夢は……
【登場人物】
大輔:(だいすけ)
バルの店長。
同棲している彼女がいる。
彼女のことが大好きで一途。
●閉店後のバル・夜
スタッフも帰った後、一人で最後の閉め作業をしている大輔。
大輔:
(パソコンを閉じて)終わった~!
照明を少し落とした薄暗い店内に俺の声だけが響き渡る
普段なら特別広いと感じることはない店が、スタッフが誰もいない今この瞬間はものすごく広いと感じてしまう
(時計を見て)うわっ! もうこんな時間かよ……
時計を見るとそれは結構いい時間を指していた
いつもだったら締め作業にこんなに掛かることなんてないのに、今日に限って遅くなってしまったのはバイトのあいつらのせいだ
「
店長の夢って何ですか?」か……
休憩時間に不意に大学生のバイト君に投げられた質問
彼らからしたらただの日常会話の延長線でしかない、本当に軽い質問だったのだろう
かくいう俺も、その時は「イケメン俳優」なんてふざけた返しをした
だが、その質問はその後も何故だか心に深く刺さっていて、何かの作業をしていても頭の片隅にちらついた
そのせいで作業の効率が落ちてしまい、結果この時間まで締め作業に掛かってしまったのだ。
(ため息をつき)なんだかな~
そんな自分に苦笑が漏れる
こんなにも彼らの質問が胸に刺さって残っているのは、俺が自分の本当の夢を偽って答えたからだろうか
幼い頃、俺はヒーローになりたかった
最初はただの憧れだった。男だったら幼い頃に絶対に一度は憧れるだろう
画面の向こうにいたとても強いお兄さん。どんな敵にだって立ち向かっていく強さとかっこよさ
それが子どものために作られた物語ってわかってからも、俺はヒーローに憧れた
だから、警察官とか消防士とか医者とか……人を助けられる職業に憧れたんだ
でも、その職を知れば知るほど、俺の中の憧れは萎んでいった
テレビの中の物語とは違って現実で本当の『生死』と向き合う世界
俺にはそれと日々向き合う勇気と覚悟がなかった
それで選んだのがこの世界だったなぁ
誰かの幸せそうな顔を身近で見ることが出来て、作り出すことが出来る仕事
調理場のスタッフが作る最高の料理と自分の接客スタイルで作ることが出来る笑顔の空間
憧れていた笑顔を『守る』ヒーローとはまた違うけれど、笑顔を『作る』側に回った俺
実際、これが正解だったんじゃないかと思うほど毎日が充実している
もちろん、辛い時もあるけれど、それを上回る幸福感がある
……だけど、ヒーローになるって夢も捨てられなくて……というか、新たに持ってしまって……
だ~! 言えるかよ!
「惚れた女を守るヒーローになりたい」なんて……
口が裂けても言えない。そんなのことあるごとにネタにされるのが目に見えている
ん?
締め作業の書類が散乱したテーブルの隅に置いてあるスマホが震える
確認をすると、そこには……
『帰り、何時くらいになりそう? 簡単なご飯用意して待っとくね』の文字
……
顔が一気ににやけていくのが自分でも分かる
心底周りにスタッフがいなくてよかったと思う。こんな顔、絶対に見せられない
さぁ、ここも片付けてさっさと帰りますか!
気合を入れ直して書類を片付け、帰り支度をする
俺はヒーローではないから、飛んで帰ったりとか魔法を使ったりなんて出来ないけれど、君の待ってくれている家に一直線に帰ることは出来る
あ、でも、今日はちょっと寄り道してくか
寄り道先は家の近くにあるコンビニ
確か今日は新商品の日だったはず
俺の帰りをこんな時間まで起きて待っていてくれている君にちょっとしたプレゼントを
「夜中に甘いものなんて」って拗ねてしまうかもしれないけど、そんな顔もまた可愛いとか……
……ぜってぇ、言えねぇ!
―幕―
2021.09.07 ボイコネにて投稿
2022.08.24 加筆修正・HP投稿
お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)
Special Thanks:じゃも様
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