甘いものといたずらと


【詳細】

比率:男1:女1

現代・日常・ラブストーリー

時間:約13~15分


【あらすじ】

大学の研究室。

ゼミの研究のために資料を借りに来た隼人は研究室にいる知佳に出くわします。

「トリック・オア・トリート!」


【登場人物】

隼人:大島 隼人(おおしま はやと)

   大学三年生。

   知佳のことを密かに想っている。

   知佳とは同じ教授のゼミ生。


知佳:山本 知佳(やまもと ちか)

   大学四年生。

   元気でちょっとドジっ子。

   隼人とは同じ教授のゼミ生。


●大学の教授の研究室

   隼人が研究室の扉をノックする。


隼人:失礼します

  

   隼人、扉を開け研究室に入る。


隼人:三年の……

知佳:(物陰から飛び出して)トリック・オア・トリート!

隼人:……はい?

知佳:トリック・オア・トリート!

隼人:……山本先輩、千葉教授は?

知佳:だから! トリック・オア・トリート!

隼人:(気に留めず)今日のこの時間って教授は授業のコマなかったですよね?

知佳:(むきになって)トリック・オア・トリート!

隼人:(気に留めず)出張ですかね?

知佳:……隼人君……

隼人:ん? あ、山本先輩、やっと会話をしてくれる気になりましたか

知佳:……ひどい……扱いが雑だ……

隼人:雑って……山本先輩が会話する気ないようだったので

知佳:私、先輩だよ?

隼人:一応、先輩ですね

知佳:一応?

隼人:一応です

知佳:ひどい!

隼人:そう思うなら、少しは年上らしいことしてください、先輩。今の行動を鑑みて

知佳:うっ……

隼人:それで、千葉教授は?

知佳:……出張だって言ってました

隼人:そうなんですね。あ、今日って戻ってこられるかどうかって言ってましたか?

知佳:大学より家の方が近いからそのまま帰るって言ってたよ

隼人:そうですか……

知佳:うん、千葉先生になんか用事でもあった?

隼人:はい、ちょっとお聞きしたいことが

知佳:なになに?

隼人:ちょっ、何でちょっと嬉しそうなんですか?

知佳:だって、少しは先輩らしいこと出来そうな予感がして!

隼人:そうですか

知佳:それで?

隼人:……ゼミのグループワークでちょっとわからないことがあって。図書館で参考資料探そうと思ったんですが、あいにく他のグループに借りられてて……

知佳:それで、千葉研究室にその本がないか探しに来たと?

隼人:はい。千葉教授の専攻分野ですから、きっとあると思ったんです

知佳:なるほど……ちょっと待ってて~

隼人:山本先輩?

知佳:(資料を探して)う~んと……ゼミ関係で出す課題に使える本は大体この辺に……


   知佳、本棚の下の方を探し出す。


隼人:山本先輩?

知佳:なに~?

隼人:何の課題かお伝えしてないのに、必要な資料わかるんですか?

知佳:(得意そうに笑って)先輩ですから。毎年、大体同じような課題出されるのよ

隼人:なるほど……

知佳:どう? 少しは先輩らしいこと出来てる?

隼人:……そうですね


   本棚の上の方に無造作に積まれている大量の紙の束が揺れる


隼人:(知佳の頭上の紙束の揺れに気が付いて)っ! 山本先輩! 

千代:(資料探しに夢中になって)去年私たちが使ったときはここら辺にあったんだけどな……

隼人:山本先輩!

千代:あった! (資料を引っ張り出して)よっと! これこれ!

隼人:先輩!(走り出す)

千代:え?


   本棚の上の紙の束が崩れる。


知佳:きゃっ!

隼人:……っ……

千代:は、隼人君! 大丈夫?

隼人:……はい

千代:(隼人の腕の切り傷に気が付いて)あっ!

隼人:え?

千代:ど、どうしよう。あ、ハンカチ!

隼人:先輩?

千代:(ポケットからハンカチを出して)あった! 大丈夫? 痛くない?

隼人:大丈夫ですよ

千代:本当に? あ、でも、とりあえず消毒しないと! あれ? この部屋に救急箱ってあったかな?

隼人:先輩

千代:いや、あったはず! 前にどっかで見た気がする!

隼人:山本先輩

知佳:きっとあそこだ! (足元にあった髪を踏んで滑る)あっ!

隼人:先輩! 


   隼人、知佳を抱きとめる。


知佳:あ、ありがとう

隼人:(ため息)

知佳:は、隼人くん?

隼人:先輩

知佳:は、はい

隼人:落ち着いて行動してくださいね

知佳:……はい、すみません……

隼人:それで、怪我はないですか?

知佳:はい、隼人君のおかげで……

隼人:それならよかったです。ここまでして怪我でもされたら意味ありませんから

知佳:……

隼人:それで?

知佳:え?

隼人:先輩が俺に渡そうとしてくれたものってなんですか?

知佳:え? あ、これ!

隼人:これ……

知佳:三年生のこの時期だったら、出てる課題はそれ使うやつでしょ? その本、今年出たばかりの最新版だからデータとして安心して使えるやつだよ

隼人:……先輩。ありがとうございます

知佳:いえいえ、ちょっとは先輩らしいこと出来たかな?

隼人:そうですね

知佳:えへへ、よかった

隼人:こんな大惨事にならなかったら、ベストだったんですがね

知佳:あ……あはははは……

隼人:とりあえず、片付けましょうか

知佳:だね

   

   隼人と知佳、散らばった資料を拾い片付け始める。


隼人:そういえば、どうして先輩は一人でここにいたんですか? めずらしい

知佳:いや~、最初は一人じゃなかったんだよ? 千葉先生が研究室出るちょっと前に何人かで来たんだけどね。先生に掃除を頼まれたらみんなサッと帰っちゃって

隼人:で、先輩一人で掃除していたと?

知佳:そうだね。まぁ、皆、用事があったなら仕方ないよね

隼人:(ため息)

知佳:え? どうしたの?

隼人:本当に先輩ってどんくさいですね

知佳:え?

隼人:完璧に押し付けられてるじゃないですか

知佳:そうだね

隼人:帰ったらよかったのに

知佳:う~ん。それは違うかなって

隼人:え?

知佳:だって、頼まれたことじゃない?

隼人:そうですね

知佳:それを途中で投げ出すってなんか嫌だなって

隼人:(小さく)……本当にもう、貴女って人は……どこまで……

知佳:隼人君?

隼人:俺も手伝いますよ

知佳:え?

隼人:ここの片付け

知佳:いやいやいや、大丈夫だよ! 隼人君、やることあるでしょ?

隼人:今日は参考資料さえ入手できればよかったんで、この後授業も取ってないですし

知佳:でも……

隼人:参考資料を見つけてくださったお礼です。それに、片付けを大幅に後退させる原因も作っちゃいましたし

知佳:いや、これは私が……

隼人:この量の片付け、先輩が一人でやってたら閉門時間に間に合わないかもしれませんし

知佳:……う、否めない

隼人:先輩を暗い夜道に一人で帰らせることになるのは気が引けるので

知佳:隼人君! ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな……

隼人:あ、それから……

隼人、知佳に近づく。

隼人:トリックで

知佳:へ?

隼人:だから、さっきの先輩への返事です

知佳:返事?

隼人:トリック・オア・トリートの。俺、今、お菓子持ってないんで

知佳:あぁ、気にしなくてもいいよ。ただの遊びだか……

隼人:(遮って)先輩、トリック・オア・トリート

知佳 :へ?

隼人:トリック・オア・トリート

知佳:は、隼人君?

隼人:俺は本気ですよ? さぁ、先輩、どうしますか?

知佳:わ、私、お菓子持ってないよ?

隼人:じゃあ、自動的にいたずらですね

知佳:いや、待って待って!

隼人:何ですか?

知佳:こ、こうしよう?

隼人:はい

知佳:私のと相殺で!

隼人:俺は全然いたずらしてもらってかまわないんですけど? むしろ、嬉しいですし?

知佳:う、嬉しい?

隼人:はい

知佳:えぇ!

隼人:あぁ、先輩にはまだ早かったですかね?

知佳:どういう意味よ!

隼人:そのまんまの意味ですが?

知佳:え?

隼人:まぁ、わからないなら今はそれでいいです

知佳:そ、そんなの……わかんないよ、はっきり言ってくれなきゃ……

隼人:わかってるじゃないですか

知佳:……

隼人:本当は卒業まで言うつもりなかったんですけどね

知佳:な、なんで?

隼人:だって、気まずいじゃないですか。学年が違うといえど、同じ教授のゼミで顔合わせることが多いのに、ここで振られたらいくら俺でもどうしていいか分からなくなります

知佳:……じゃあ、どうして……

隼人:危なっかしくてお人好しの先輩を見ていたら、ほっとけないって思ったんです。それに……

知佳:それに?

隼人:……

知佳:なに? 教えてよ?

隼人:アクシデントとはいえ、先輩を抱きしめたら、もっとほっとけなくなりました

知佳:……っ……

隼人:というわけで、先輩

知佳:……何?

隼人:お菓子もいたずらもいらないので、俺にあなたをください




―幕―




2020.10.06 ボイコネにて投稿

2022.09.01 加筆修正・HP投稿


紅く色づく季節

こちらは紅山楓のシナリオを投稿しております。 ご使用の際は、『シナリオの使用について』をお読みくださいませ。 どうぞ、よろしくお願いいたします!

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