好きな子のお菓子が欲しい


【詳細】

比率:男3・女2

ファンタジー・コメディ

時間:約20分


【あらすじ】

秋のとある夜。

カミラの邸宅にてまたまた事件が起きました。

「クロがハロウィンに手作りのお菓子を誰かにあげるって!」

彼女がお菓子を贈る相手は誰なのか?


*こちらの作品は『ハロウィンとは』と同じキャラクターが出てきています



【登場人物】

ジャック:正式名はジャック・オー・ランタン。

     見た目は少年。

     大好きなクロが手作りのお菓子を誰かにあげると聞いて慌てている。


  クロ:見た目は少女。

     魔女なのだが、まだ幼く、人間界に行くときは黒猫の姿にな。

     急な大きい音や大きな声が苦手。

     師匠の魔女・ウィッチに溺愛されている。


 ポール:見た目は少年。

     いわゆる王道のゴースト。

     人前に姿を現すときは白い布を被っている。

     ジャックとは悪友。


 カミラ:見た目は大人の女性。

     みんなのお姉さん的な存在の吸血鬼。

     クロの師匠とはお茶飲み友だち。


 マイク:見た目は大人の男性。

     のらりくらりとしていて掴みどころのない海賊。

     皆には隠しているがカミラによって一族に迎えられた、後天性の吸血鬼。



●カミラの邸宅・客間

   一人でお茶を飲んでくつろいでいるマイク。

   扉を勢いよく開けて入って来るジャックとポール。


 ポール:マイク! 助けて!

ジャック:おい、ポール、逃げんなよ!

 マイク:……うっせーぞ、お前ら。またカミラにどやされたいのか?

 ポール:うっ……

ジャック:それは嫌だ……

 マイク:だったら、静かにしとけ

 ポール:だって、ジャックが!

ジャック:おい、俺のせいだっていうのかよ!

 ポール:どう考えたってジャックが悪いだろう

ジャック:なんだと!

 マイク:(低い声で)……言ってる傍から、うるせぇぞ

 ポール:ひっ!

ジャック:すみませんでした!

 マイク:(ため息をついて)で? 何があったんだ?

 ポール:……え?

ジャック:……聞いてくれるのか?

 マイク:ここで聞かないとずっと堂々巡りする羽目になるんだろ? だったら、さっさと話しを聞くのが一番だろ

 ポール:(羨望の眼差しで)マイク!

 マイク:で、どうしたんだ?

 ポール:実は、ジャックが……(ジャックを見る)

ジャック:……

 ポール:ほら、ジャック、ちゃんと自分で相談しなよ

ジャック:……

 マイク:……どうした? ジャック

ジャック:(泣きそうになりながら)マイク、俺、どうしたらいいか分からなくて……

 マイク:どうしたんだ?

ジャック:……クロが……クロが……

 マイク:クロがどうしたんだ?

ジャック:ハロウィンに手作りのお菓子を誰かにあげるって!




●カミラの邸宅・キッチン

   カミラと一緒にお菓子を作るクロ。


 カミラ:(微かに客までの騒ぎが聞こえて)ん?

  クロ:カミラちゃん? どうしたの?

 カミラ:ううん。何でもないわ

  クロ:そう?

 カミラ:えぇ、お客様が来たみたいだけど、あっちはマイクに任せておけば大丈夫だから

  クロ:えぇ! 大丈夫なの?

 カミラ:もちろんよ。マイクだってちゃんとした大人だもの。来客の対応くらい出来るでしょう。そんなことよりも、今はクロの『初めての挑戦』の方が大事

  クロ:えへへ、ありがとう、カミラちゃん。突然我がまま言っちゃってごめんなさい

 カミラ:いいのよ。私もちょうど何か作ろうかなって考えていたところだったし

  クロ:(ホッとして)ならよかった

 カミラ:(優しく微笑んで)でも、急にお菓子を作りたいなんてどうしたの?

  クロ:実はお師匠様が……

 カミラ:ウィッチちゃんがどうしたの?

  クロ:せっかくのハロウィンなんだから、大好きな人にお菓子でも作ってあげてみたらどうかしら。クロも女の子なんだからって

 カミラ:あぁ、なるほど。ちなみに、ウィッチちゃんから何か変な薬とか渡されたりしなかったかしら?

  クロ:ん? 何ももらってないよ?

 カミラ:そう、それならよかった……

  クロ:(食い気味で)でも!

 カミラ:でも?

  クロ:お菓子を渡す前に必ず私に見せなさいって、とっておきの魔法をかけてあげるからって言ってた!

 カミラ:……クロ、ウィッチちゃんには私からきっちり言っておくから、出来上がったらすぐに渡したい子のところに持っていきましょう

  クロ:え? でも、いいの?

 カミラ:もちろん。お菓子は出来たてが美味しいからね

  クロ:やった!

 カミラ:(小声で)ウィッチ、あの子は……後でみっちりお説教しなきゃ……

  クロ:カミラちゃん?

 カミラ:あぁ、何でもないわ。それで、クロはどんなお菓子が作りたいの?

  クロ:えっとね! 私、お菓子を作るの初めてだから、クッキーにしようかなって

 カミラ:あら、可愛いわね

  クロ:……出来るかな?

 カミラ:大丈夫よ。私も手伝うから頑張りましょう

  クロ:うん!




●カミラの邸宅・客間

   テーブルに突っ伏しているジャック。


 マイク:なるほどな。つまり、クロが手作りのお菓子を誰か好きな奴にあげるんじゃないかって焦ってるんだな

ジャック:……

 ポール:そうなんだよ。朝一で僕の所に来て大騒ぎだったんだから

 マイク:それはお疲れさん。で? ジャックはどうしたいんだ?

ジャック:え?

 ポール:「え?」じゃなくて。ジャックはクロが作ったお菓子をどうしたいの?

ジャック:どうしたいって……

 マイク:そりゃ、男としては誰かの手に渡るのは阻止したいわな

 ポール:じゃあ、出来上がったお菓子を隠しちゃうってのはどう?

ジャック:そんなこと出来るか!

 ポール:えぇ~

ジャック:だってそんなことしたら、クロが悲しむだろ!

 ポール:確かに

 マイク:カミラにもどやされるだろうしな

 ポール:……確かに

ジャック:だから、隠すとか奪うなんてことはしない! 出来ない!

 ポール:んじゃあ、どうするんだよ

ジャック:……それは……

 ポール:このままクロが誰かにお菓子を渡すのを黙って見てるの?

ジャック:それも嫌だ!

 ポール:なんなんだよ!

ジャック:仕方ないだろ!

 マイク:お菓子を渡すのは阻止したいけど、クロを悲しませるのは嫌だ、か

 ポール:う~ん……あ、わかった!

ジャック:何だ!

 ポール:じゃあ、そもそもお菓子を作ることを阻止しちゃえばいいんじゃない!

 マイク:いや、それは無理だな

 ポール:なんで?

 マイク:クロがお菓子を作るって話はもうカミラが知ってるし、材料も一通り揃えてたぞ

 ポール:それじゃあ、無理だね

 マイク:だろう?

ジャック:あぁ! 俺はどうしたらいいんだよ!

 ポール:……ジャック

 マイク:(ため息をついて)ジャック、お前に一個助言をしてやるよ

ジャック:本当か、マイク!

 マイク:あぁ

ジャック:なんだ!

 マイク:男だったら覚悟を決めろ

ジャック:え?

 マイク:どうしても手に入れたいものがあるんだったら、何を差し置いても手を伸ばせ。あれもこれもなんて掴めない。本当に欲しいものを掴め

 ポール:おぉ! 大人だ!

ジャック:……本当に欲しいもの……

 マイク:そうだ。お前の欲しいものは何だ? それを前にして今のお前の悩みは必要か?

ジャック:……

 ポール:マイクが言うとなんか説得力があるな~

 マイク:そうか?

 ポール:うん。年季が入ってるっていうか、貫禄があるっていくか

 マイク:(軽く笑って)そりゃそうだろうな

 ポール:え?

 マイク:これは俺のいた船の船長の言葉だ

 ポール:あぁ! だからか!

 マイク:若き日の俺が道に迷ったときにかけてくれた言葉なんだよ

 ポール:へぇ、マイクにもそんな時があったんだ~

 マイク:当たり前だろうが。俺だってこのまま生まれてきたわけじゃないんだ

 ポール:確かに!

ジャック:……

 マイク:それで?

ジャック:え?

 マイク:お前の掴みたいものは何だ?

ジャック:俺の掴みたいもの……

 ポール:あれ?

 マイク:ん? どうした、ポール

 ポール:何かいい匂いしてこない?

ジャック:確かに……

 マイク:あぁ、出来上がったのか

 ポール:出来上がった?


   キッチンに繋がる扉が開く。


 カミラ:あら、やっぱり揃ってたのね?

 マイク:あぁ。ちなみに、さっき扉を勢いよく開けて入って来たのはポールだ

 ポール:ちょっと、マイク!

 カミラ:(低い声で)あら……

 ポール:いや、その、カミラ……これには、事情が……

 カミラ:(満面の笑みで)事情?

 ポール:えっと、ジャックが大変で……その、あの……ごめんなさい!

 カミラ:わかればよろしい。それで、ジャックに何かあったの?

ジャック:……

 マイク:別に何にもねぇよ

 ポール:え?

ジャック:え?

 マイク:男同士の秘密の話をしていただけさ

ジャック:マイク……

 ポール:そうだね! 男だけの秘密の話さ!

 カミラ:あら、私たちは仲間外れってわけね

 ポール:私、たち?

 カミラ:何を話していたのか気になるけれど、マイクには女の子の秘密を守ってもらったし、深くは追及しないでおくわ

 ポール:女の子の秘密?

 カミラ:何でもないわ

 マイク:とか言いつつ、もう隠すつもりもないだろう

 カミラ:あら、わかっちゃった?

 マイク:お前が来た時点でな

 カミラ:察しがいいこと

 ポール:何のこと?

 カミラ:それはこの後のお楽しみよ。(ジャックを見て)ねぇ、ジャック

ジャック:何だ?

 カミラ:ちょっとキッチンから取ってきてほしいものがあるんだけどお願いしてもいいかしら?

ジャック:取ってきてほしいもの?

 カミラ:えぇ、一人だとちょっと重いと思うから

 ポール:じゃあ、僕も……

 カミラ:(遮って)ポールは別の用事を頼まれてくれるかしら?

 ポール:え? うん、わかった

 カミラ:そう言うことで、よろしくね、ジャック

ジャック:わかった


   ジャック、扉を開けキッチンの方へ去る。


 カミラ:(微笑んで)上手くいくといいわね

 マイク:何だ? もう確定なのか?

 カミラ:う~ん、まだどうなるかは分からないけれど、いいきっかけになるんじゃないかしら?

 マイク:なるほどな

 ポール:ねぇねぇ、二人とも! さっきから二人だけで何を納得してるんだよ!

 マイク:あぁ、これは大人の話だよ

 ポール:はぁ?

 カミラ:もう、マイク。ポール、貴方にはちょっとお遣いを頼んでもいいかしら?

 ポール:お遣い?

 カミラ:そう。森のウィッチちゃんの所に行って、彼女を呼んできてほしいのよ

 ポール:ウィッチちゃんって……クロのお師匠様の?

 カミラ:そう。あぁ、一緒に私からの伝言も伝えてもらってもいいかしら

 ポール:わかった!

 カミラ:「貴女が企んでいたことは阻止させてもらいました。クロが初めて作ったお菓子は無事にクロの大好きな人たちに渡しました。つきましては私の家でお茶会をするのでどうぞいらしてください」ってね

 ポール:……え……何か不穏なんだけど……

 カミラ:大丈夫よ。お遣いが終わったらすぐに帰ってきてちょうだい。寄り道なんてしちゃダメよ?

 ポール:わかった

 カミラ:帰ってきたら、クロの作ってくれたお菓子でお茶会しましょう。クロの『大好きな人』に貴方も入ってるんだから

 ポール:(カミラの言わんとしていることを理解して)あぁ! そういうことか! わかった!

 カミラ:(微笑んで)よろしくね

 ポール:うん! じゃあ、行ってくる!

 カミラ:いってらっしゃい


   ポール、邸宅を出ていく。


 カミラ:さてと……

 マイク:上手くいったのか?

 カミラ:えぇ、初めてなのに凄く手際が良くて綺麗に仕上がったわ

 マイク:そうか

 カミラ:一生懸命にお菓子を作るクロ、可愛かったわ~

 マイク:それは見たかったな

 カミラ:あら、これは女の子だけの秘密だったんだから無理よ

 マイク:それを守るために俺はここで門番だったんだもんな

 カミラ:あら、寂しかったの?

 マイク:あぁ、寂しかったね(カミラを抱きしめる)

 カミラ:ちょっと、マイク!

 マイク:……少しだけ、こうさせてくれ……

 カミラ:……思い出したの?

 マイク:聞いてたのか?

 カミラ:少しだけ

 マイク:……男だけの内緒の話だったはずなんだがな

 カミラ:聞こえてしまったの

 マイク:そうか……

 カミラ:……優しいキャプテンだったわね

 マイク:あぁ

 カミラ:大丈夫よ

 マイク:え?

 カミラ:あの方のことだもの。きっと貴方のことを誇らしく思ってるわ

 マイク:……カミラ……

 カミラ:よく、己の欲しいものを掴み取ったって

 マイク:(微笑んで)そうだな。あの人はそういう人だ……

 カミラ:えぇ

 マイク:ありがとう、カミラ

 カミラ:どういたしまして




●カミラの邸宅・キッチン


ジャック:あ、そう言えば、俺は何を持っていけば……

  クロ:あ、ジャック!

ジャック:く、クロ! どうしてここに!

  クロ:カミラちゃんにお菓子作りを教わってたの!

ジャック:お、お菓子!

  クロ:うん!

ジャック:そ、そっか~

  クロ:ん? どうしたの、ジャック?

ジャック:へ? あ、何でもない! そ、それで、お菓子は上手く作れたの?

  クロ:うん!

ジャック:(クロに悟られない程度に落ち込んで)そ、そっか……

  クロ:うん! みんなにあげたかったから、上手に作れてよかった!

ジャック:え?

  クロ:今年のハロウィンは大好きな人たちに手作りのお菓子をあげたらってお師匠様に言われて! だから、カミラちゃんに教えてもらってたの!

ジャック:へ? み、みんな?

  クロ:そう、みんな!

ジャック:(ホッとして)……そっか~


   ジャック、その場にへたり込む。


  クロ:ジャック! 大丈夫?

ジャック:よかった~

  クロ:ジャック?

ジャック:あぁ、大丈夫だよ、クロ

  クロ:本当に?

ジャック:本当に

  クロ:よかった~!

ジャック:……クロ……

  クロ:ん?

ジャック:いや、何でもない!

  クロ:ん?

ジャック:それで、そのお菓子って……

  クロ:あ、コレ!

ジャック:わぁ、いっぱいあるね

  クロ:うん! カミラちゃんとこれからあっちに運ぼうって言ってて、運んでくれる人連れてくるって

ジャック:そっか。じゃあ、これ、あっちの部屋まで運ぼうか!

  クロ:え? 手伝ってくれるの?

ジャック:もちらん!

  クロ:ありがとう、ジャック!

ジャック:へへへ

  クロ:あ、そうだ!


   クロ、お皿のクッキーを一枚とってジャックの口の前に持っていく。


ジャック:え?

  クロ:ジャック、お口開けて。あ~ん!

ジャック:え? えぇ!

  クロ:早く! あ~ん!

ジャック:(戸惑いながらも)あ、あ~ん……

   

   ジャック、クッキーを食べる。


  クロ:どう? おいしい?

ジャック:うん! おいしい!

  クロ:えへっ! お手伝いしてくれるジャックに一番先にプレゼント。みんなには内緒だよ?

ジャック:うん!



―幕―




2021.10.17 ボイコネにて投稿

2022.09.14 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

紅く色づく季節

こちらは紅山楓のシナリオを投稿しております。 ご使用の際は、『シナリオの使用について』をお読みくださいませ。 どうぞ、よろしくお願いいたします!

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