【詳細】
比率:男1:女1
ファンタジー・ラブストーリー
時間:約15分~18分
【あらすじ】
ある月明かりが眩しい夜。
リュヌは一匹のずぶ濡れの子猫を見つけます。
それが二匹の出会いでした。
【登場人物】
リュヌ:梟(ふくろう)。森の魔女の使い魔。
変身すると男性の人型になれる。
月明かりの眩しい夜にエトを見つける。
本人には言えないが、エトのことが好き。
エト:正式な名前はエトワール。
月明かりの眩しい夜にリュヌに助けられた猫。
森の魔女の使い魔になった今では変身することが出来、変身すると女性の人型になれる。
本人は自覚できていないがリュヌのことが好き。
●川辺・月明かりの眩しい夜
濡れた子猫が泣いている
エト:(泣きながら)……お母さん……お母さん……ごめんなさい……私が悪い子だから……
リュヌ:(空からエトを見つけ)ん? 子猫? こんな時間に? (地上のエトに向かって)お~い!
エト:っ! だ、誰?
リュヌ、空から舞い降りる。
エト:(風圧に押され)きゃっ!
リュヌ:あぁ、ごめん! 小さい君の身体にはこの風は強かったね……
エト:あ、ふ、梟さん……た、食べないで!
リュヌ:え?
エト:私は美味しくないから、食べないで!
リュヌ:た、食べないよ!
エト: ほ、本当に?
リュヌ:本当に。僕はこの近くの森に住む魔女様の使い魔の梟だよ。野生の梟じゃない。だから、君を食べたりはしない
エト:魔女様? 使い魔?
リュヌ:そう。だから、安心して
エト:……
リュヌ:(苦笑して)って、言っても怖いよね。う~ん……
エト:……?
リュヌ:本当は誰かの前で変身しちゃいけないんだけど……魔女様には内緒だよ?
エト:え?
リュヌ:よっと!
リュヌの身体が光に包まれ、人間の姿になる。
エト:!
リュヌ:ふぅ、この姿、久々だな。ん?
エト:に、人間になった……
リュヌ:うん。僕は魔女様の使い魔だからね。これくらいは……
エト:(遮って)ねぇ! 助けて!
リュヌ:え?
エト:お母さんが川に!
リュヌ:川?
エト:(リュヌに詰め寄り)お母さんが弟と私を助けに! まだ川に!
リュヌ:ちょっと、お、落ち着いて
エト:早くしないとお母さんと弟が死んじゃう! 人間なら助けられるでしょ!
リュヌ:わ、わかった。お母さんたちはどこにいるの?
エト:(方向を指さし)あっち!
リュヌ:あっちって……あそこは急流の……
エト:急流って?
リュヌ:ちょっと待ってろ。よっ!
リュヌ、背から翼を出し、空へと舞い上がる。
エト:わぁ! すごい!
リュヌ:魔女様の使い魔だからね。これくらいは……(猫の親子の変わり果てた姿を視認し)……っ……
エト:ん? どうしたの、梟さ~ん。お母さん、いた~?
リュヌ:……
エト:梟さ~ん?
リュヌ:……
リュヌ、エトの前に舞い戻る。
エト:梟さん?
リュヌ:(エトの目の前に手をかざし低い声で)……眠れ……
リュヌの手のひらから淡い光が現れる。
エト:え? あっ……(眠る)
リュヌ:……あの光景は君には残酷すぎる……少しの間、眠っていてくれ……
●小高い丘(朝日の丘)・朝
人間の姿のリュヌの膝の上で眠るエト。
エト:ん……ここは?
リュヌ:起きた? ここは、朝日の丘。この森で唯一日の光が当たる丘なんだ
エト:(バッと起き上がり)お母さん!
リュヌ: ……
エト:梟さん、お母さんは?
リュヌ:……いなかったよ
エト:え?
リュヌ:君の指す方向には君のお母さんも弟もいなかった
エト:嘘! だって、お母さんはあそこに……
リュヌ: (遮って)ただ、あの川の向こう岸に濡れた足跡が二つあった
エト:え?
リュヌ:きっと、君のお母さんと弟くんは岸の向こう側に行ったんだと思う
エト:……私を置いて?
リュヌ:……
エト:……私が、悪い子だから置いていかれちゃったの……
リュヌ:(エトを抱き締めて)っ! 違う!
エト:違わないよ! 私が……私が……
リュヌ:きっと、君に気が付けなかったんだ!
エト:……え?
リュヌ:君の身体はだいぶ水に濡れていた。そのせいで君の匂いは弱くなっていた。だから、岸にたどり着いていた君のことを捜したくても捜せなかったんだ
エト:……本当に?
リュヌ:あぁ、きっとそうだ
エト:じゃあ、いい子にして待ってたら迎えにきてくれる?
リュヌ:……きっと
エト:わかった! じゃあ、私、いい子にして待ってる!
リュヌ:……
エト:梟さん?
リュヌ:……あぁ、そうだ。君にいいことを教えてあげる
エト:何
リュヌ:そこの木の根元に大きい石があるだろ?
エト:木の根元?
エト、周りをキョロキョロと見渡す。
エト:あ、あの綺麗な大きい石のこと?
リュヌ:そうだ。それは、この丘にある秘密の石でね。想いをいっぱい込めれば会いたい者に会えるんだ
エト:そうなの?
リュヌ:……あぁ
エト:じゃあ、私、お母さんと弟に会いたいって、大好きって気持ちいっぱい込める!
エト、リュヌの膝から降りて石の前に行く。
エト:石さん、石さん! 私のお母さんと弟に合わせてください! 私、お母さんと弟が大好きだから、早く会いたいです!
リュヌ:……
エト:毎日、いっぱい、いっっぱい想いを込めるから、早く会わせてね!
リュヌ:(消え入りそうな小さな声で)……すまない……
エト:梟さん! 私、いっぱい想いを込めた!
リュヌ: そうか
エト:うん!
リュヌ:……なぁ、君はこれからどうするんだ?
エト:どうする?
リュヌ:食事とか、寝るところとか……
エト:私はあの川に戻るよ!
リュヌ:え?
エト:私はあそこにいなきゃ。だって、いつお母さんが迎えに来てくれるかわからないから!
リュヌ:……
エト:だから、私はあそこでいい子にして待つの!
リュヌ:でも、それじゃお腹が空くだろう??
エト:う~ん……我慢する!
リュヌ:森にはいろんな獣がいるから危ないよ?
エト:……
リュヌ:君みたいな小さな子は食べられちゃうかもしれない
エト:……で、でも……
リュヌ:だから、魔女様の家においでよ
エト:え?
リュヌ:魔女様の家ならあの川にもこの丘にも近い。君のお母さんが迎えに来てもすぐにわかるよ。それになにより、安全だ
エト:本当?
リュヌ:あぁ。毎日、僕が君をここに連れてきてあげることも出来るよ
エト:わかった! (ほっと息をついて)……よかった!
リュヌ:え?
エト:本当は私だけで待つの寂しかったの。でも、梟さんと一緒なら寂しくないね
リュヌ:……っ……
エト:梟さん?
リュヌ:……いや、なんでもない。じゃあ、魔女様の家に行こう
エト:うん! あ、でも、急に私が一緒に行っても梟さん、怒られない?
リュヌ:大丈夫だよ。魔女様はお優しい方だから
エト:よかった
リュヌ:あ、そうだ
エト:何?
リュヌ:君の名前、まだ聞いてなかったね
エト:お名前?
リュヌ:そう、名前
エト:……わからない……
リュヌ:え?
エト:……私、お姉ちゃんとしか呼ばれてなかったから……
リュヌ:……そうか……
エト:お名前、わからないとダメ?
リュヌ:そうだねぇ。君は僕のお姉ちゃんじゃないし、いつまでも『君』って呼ぶのは嫌だし……
エト:う~ん、どうしよう?
リュヌ:(少し考え込んで)……ねぇ
エト:何?
リュヌ:君が嫌じゃなかったら僕が君に名前を贈ってもいいかな?
エト:え?
リュヌ:あぁ、ごめん。僕からじゃ嫌だよね…
エト:(遮って)ううん! 嬉しい!
リュヌ:え?
エト:お名前、欲しい!
リュヌ:いいの?
エト:うん! だって、梟さんがくれるんだもん!
リュヌ:……ありがとう……
エト:え?
リュヌ:(優しく頭を撫で微笑み)何でもないよ。じゃあ、僕から君へ、名前を贈るね
エト:うん!
リュヌ:君の名前は……
●数年後・朝日の丘・夜
木の根元の石に手を合わせるエト。姿は人。
エト:……
リュヌ:(空から)あ、エト!
エト:あ、リュヌ! お帰りなさい!
リュヌ、エトの隣に下りたって人間の姿になる。
リュヌ:よっと。こんな時間に外に出ちゃダメって僕言わなかったっけ?
エト:魔女様にはちゃんとご許可をいただいたわ。もちろん、護身用の魔法もかけていただいた!
リュヌ:……魔女様……相変わらずエトには甘いんだから……
エト:そうかな?
リュヌ:そうだよ。僕としてはこんな時間にエトには外に出ないでほしいのに……
エト:もう。リュヌは心配性なんだから
リュヌ:心配もするさ。しかも、人間の姿で出てくるなんて……
エト:ここは魔女様の森よ。悪い人間も獣も入ってこられないわ
リュヌ:そんなの、わからないじゃないか! 万が一ってこともある……
エト:もう、リュヌ! (リュヌの両頬を手で挟む)
リュヌ:エ、エト?
エト:リュヌが優しくて心配性なのはわかった。でも、私だってもう立派な魔女様の使い魔なんだから
リュヌ:……エト
エト:心配ばかりじゃ嫌だよ
リュヌ:うん。そうだよね。ごめん
エト:ううん。リュヌが本当に心配してくれているのはわかってるから。ありがとう
リュヌ:うん。それで、こんな時間にどうしたの?
エト:……そろそろ、ちゃんとけじめを付けなきゃなって
リュヌ:え?
エト:お母さんたちにお別れを言いに来たの
リュヌ:……エト……知ってたの……
エト:……うん。なんとなく、気が付いてた……
リュヌ:……ごめん
エト:ううん、リュヌが謝ることじゃないよ。だって、私のことを思ってでしょ?
リュヌ:でも、ちゃんと僕の口から君に伝えるべきだった……真実を隠したのは僕なんだから……
エト:(優しく微笑んで)そんな顔しないで
リュヌ:え?
エト:リュヌのおかげでなんだよ
リュヌ:僕の?
エト:私がこうやってお母さんと弟の死に向き合えたのはリュヌがいてくれたから
リュヌ:……エト……
エト:だから、今からちゃんとお別れを言うから、隣にいてくれないかな?
リュヌ:もちろん
エト:ありがとう。(石に向き直り)……お母さん、名前もない私の弟君。今までちゃんとお墓参りが出来なくてごめんなさい。私、貴方たちがこの世にもういないって認めるのが怖かった。あの日、私が、弟君が川に入るのをちゃんと止めることが出来ていたら、貴方たちは死ななかった。だから、本当にごめんなさい。本当ならあの時、お姉ちゃんの私が死んで、お母さんと弟君が助かるべきだったんじゃないかってずっと思っていたの……
リュヌ:……エト……
エト:……私が助かっちゃってごめんなさい……
リュヌ:(震えるエトの身体を優しく後ろから抱きしめる)……エト……
エト:ずっと、後悔してた。ずっと、ずっと……
リュヌ:……エト……
エト:でも、昨日、あの時のことを夢に見て思い出したんだ。最後の瞬間、お母さんが私に向かって言ってくれた言葉。『生きて』って……
リュヌ:……
エト:……都合のいい夢なのかもしれない。でも、きっとお母さんはそう言ってくれたって私は信じたい。だって、私のお母さんだもん。だからね、明日から、ちゃんと前を向いて、全力で生きようって決めたの。お母さんと弟君の分も。そう思って、ちゃんとお墓参りとして今日ここに来たんだ。お母さん、あの時、私のことを助けてくれてありがとう。弟君、私は君のお姉ちゃんとしてちゃんと君に恥ずかしくないように生きるよ。だから、そっちに行ったら、いっぱいお話しようね
リュヌ:……
エト:リュヌ、ありがとう
リュヌ:……ん
エト:もう、大丈夫だよ?
リュヌ:……ダメ
エト:え?
リュヌ:もう少しこのまま
エト:……ありがとう……
リュヌ:……僕の方こそありがとう
エト:え?
リュヌ:生きてくれて、こうやってここにいてくれて
エト:……リュヌ
リュヌ:これからは……いや、エトに名前を贈ったときからだけど。エトには魔女様と僕がいる。家族だよ
エト:うん
―幕―
2021.07.03 ボイコネにて投稿
2023.02.21 加筆修正・HP投稿
お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaaso.com)
Special Thanks:猫又ルッフィー様、よふかし様
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