【詳細】
比率:男1:女1
現代・ラブストーリー
時間:約10分
【あらすじ】
ある秋の夜。
瑠衣は珍しくベランダでお酒を飲んでいた。
偶然、同じくベランダに出てきた隣の住人、陽介と昔話に花が咲く。
「私たち、大人になっちゃったね」
【登場人物】
瑠衣:(るい)
社会人。陽介とは幼馴染。
陽介:(ようすけ)
社会人。瑠衣とは幼馴染。
●瑠衣の部屋のベランダ・秋・夜
缶チューハイを片手にベランダに出てくる瑠衣。開けて一口飲むと冷たい風が吹く。
瑠衣:うわっ、風冷たっ。あぁ……思ってたより寒い……
陽介:(隣のベランダから)そりゃ、もう秋だからな
瑠衣:うわっ!
陽介:うわってなんだよ。人をお化けか何かみたいに
瑠衣:だって、いるなんて思わないじゃん
陽介:はいはい。そいつは悪うございました
瑠衣:もう!
陽介:で?
瑠衣:なに?
陽介:今帰ってきたの?
瑠衣:ちょっと前くらいかな
陽介:ちょっと前って……もう二十二時じゃん。また残業?
瑠衣:う~ん、残業ではないかな?
陽介:じゃあ、付き合い?
瑠衣:うん、そんなとこ……
陽介:こんな時間まで?
瑠衣:二十二時前には家に着いてたし、まだ善良な方だよ
陽介:……
瑠衣:あ、今絶対「ふんっ」って顔してるでしょ?
陽介:……何だよ、「ふんっ」ってした顔って
瑠衣:陽介が昔からムッとした時にする顔
陽介:……そんな顔してねぇよ
瑠衣:いいや、してるね。幼馴染をなめるなよ
陽介:……
瑠衣:ふふふ、図星だな
陽介:うっせぇ
瑠衣:で?
陽介:ん?
瑠衣:陽介は?
陽介:今日はリモート
瑠衣:えぇ、ずるい~
陽介:いや、言うて元々在宅での仕事の方が多いから、いつもと変わんないだろ
瑠衣:えぇ~、それでもずるい
陽介:ほぅ……ずるいか? 俺が在宅だからお前に飯のお裾分けが出来るんだろうが
瑠衣:うっ……
陽介:次のお裾分けはいらないと
瑠衣:それは……
陽介:母さんから昨日いろんな野菜とか米が届いて、瑠衣ちゃんと美味しく食べてねって言われたんだけどな~
瑠衣:……
陽介:瑠衣~?
瑠衣:……すみませんでした
陽介:わかればよろしい
瑠衣:う~、陽介のクセに……
陽介:何か言ったか?
瑠衣:何でもありません!
陽介:そうですか
瑠衣:ふん! ……あれ?
陽介:ん? どうした?
瑠衣:この匂い、いつもと違う?
陽介:匂い?
瑠衣:うん、煙草、変えた?
陽介:ん? あぁ、電子タバコに変えたけど……え? そんなに匂いする?
瑠衣:微かにだけど、今ちょっとだけ
陽介:そっか。ごめん、気を付ける
瑠衣:え?
陽介:煙草の臭いってあんまり好きじゃないだろう?
瑠衣:別にいいよ? 目の前で吸ってるわけじゃないし。昔は嫌いだったけど、大人になったら飲み会とか多いから慣れちゃったし
陽介:もっと早く禁煙の文化を作ってほしかったよ
瑠衣:それ、吸ってる本人が言う?
陽介:まぁな。最初は「煙草を吸う」っていう大人なイメージに憧れて、早く大人になりたくて吸い始めたんだけど……気が付いたら無意識に吸うようになってたな
瑠衣:男の人はそういう付き合いもあるだろうしね
陽介:まぁな
少しの間。
瑠衣:……私たち、大人になっちゃったね
陽介:ん?
瑠衣:陽介は煙草を吸うようになって、私はお酒を飲むようになって
陽介:そうだな
瑠衣:お隣さん同士で、親が仲良くて、物心つく前から一緒に育って、小さい時は私よりこ~んなに小さかったのにさ
陽介:そんなに小さくはなかっただろうが
瑠衣:でも私よりは小さかったよね?
陽介:……
瑠衣:でも、高校生になったら急に身長伸び始めてさ
陽介:あぁ、あんときは成長痛が辛かったな
瑠衣:バレンタインなんて家の前に女の子いっぱいいたよね
陽介:いねえよ
瑠衣:嘘だ。私、ベランダから見てたんだから
陽介:え?
瑠衣:陽介、今年もモテてるんだ~。こりゃ、私のはもういらないなって
陽介:……だから、高校になったらくれなくなったのか?
瑠衣:そうだよ?
陽介:……
瑠衣:で、大学生になってお互いに東京出ることになって
陽介:心配した母さんたちが同じマンションの隣同士の部屋契約してな
瑠衣:ほんと、あの時はびっくりしたよ~
陽介:お前に悪い虫が付かないようにって心配したんだろ
瑠衣:そんなん付くわけないのにね~
陽介:(ため息をついて)相変わらず、自分のことには鈍感なんだな
瑠衣:え~?
陽介:そんなんだから、おばさんも心配してたんだよ
瑠衣:え?
陽介:今だから言うけどな、大学の時お前結構モテてたんだからな
瑠衣:えぇ?
陽介:お前が天然だから言い寄れなくて、代わりに俺の所にお前を紹介してくれってきたやつ何人もいたんだからな
瑠衣:……そうだったの?
陽介:あぁ、みんなろくでもない奴ばっかりだったから全部断っといたけどな
瑠衣:……おかん……
陽介:……せめて、おとんにしといてくれ……
瑠衣:でも、そっか~。そんなことあったんだ~
陽介:あぁ。だから、今でも気が気じゃないんだよ
瑠衣:え?
陽介:それで?
瑠衣:え? 何?
陽介:今日は何があった?
瑠衣:え?
陽介:何かあったから、酒片手にベランダに出てきてるんだろ?
瑠衣:……何も……
陽介:(遮って)嘘
瑠衣:え?
陽介:お前、家じゃ普段飲まないだろ? しかも、飲み会の帰りで、更に家に帰ってきてまで酒を飲むなんてことお前はしない
瑠衣:……
陽介:あと、帰ってきた時のドアの音
瑠衣:ドアの音?
陽介:いつもだったら静かに閉めるのに、今日はそうじゃなかった
瑠衣:……
陽介:隠しても無駄だ。幼馴染なめんなよ
瑠衣:……
陽介:どうした?
瑠衣:……どうもしないよ……
陽介:おい
瑠衣:ごめん、本当に何かがあったわけじゃないんだ。ただ……
陽介:ただ?
瑠衣:たまに……本当にたまになんだけどね、無性にむなしくなるの……
陽介:むなしい?
瑠衣:……うん。いや、むなしいって表現が合ってるのか分からないんだけど……
陽介:うん
瑠衣:私って何してるんだろうとか、何のために仕事してるんだろうとか、いろいろ考えちゃうのよ。で、行くところまで行っちゃうと私って必要な存在なのかなとか考えちゃうの
陽介:……瑠衣……
瑠衣:でさ、そんな落ちてる日に限って飲み会とか入っちゃうし、それで帰ってきたら部屋が暗くて、もっと気持ちが落ち込んじゃってさ
陽介:それで、酒飲もうとしたの?
瑠衣:うん。でも、そんなお酒はやっぱりおいしくないね
陽介:(ため息)
瑠衣:陽介?
陽介:瑠衣、明日は休み?
瑠衣:休みだよ?
陽介:予定は?
瑠衣:ない
陽介:よし、じゃあ、今から俺の部屋に来い
瑠衣:え?
陽介:お前がむなしくなくなるまでとことん付き合ってやる
瑠衣:えぇ!
陽介:反論は認めない
瑠衣:ちょっと、陽介!
陽介:何だよ?
瑠衣:いくら幼馴染でもこんな時間には……
陽介:はあ?
瑠衣:だって、一応、私たち大人だよ?
陽介:お前……こういう時だけなんで律儀なんだよ……
瑠衣:だって!
陽介:……ただの幼馴染じゃなければいいのか?
瑠衣:え?
陽介:(ため息をついて)いい加減に気づけよ。俺は何とも思ってないやつの隣になんてずっといたりしないし、そもそもこんなに心配なんかしない
瑠衣:え? え?
陽介:……今だから言うけどな。俺、ずっとお前以外からバレンタインもらったことないから
瑠衣:え! 嘘!
陽介:ほんとだよ。こんなことで嘘ついてどうする
瑠衣:……
陽介:俺は前からも、そしてこれからもお前しか見てないよ
瑠衣:……陽介……
陽介:いくら鈍いお前でも、この意味、分かるだろ?
瑠衣:……
陽介:それを踏まえた上で俺の部屋に来るか決めろ。鍵は開けとくから
瑠衣:……わかった……でも、本当にいいの?
陽介:その言葉、都合よく解釈するぞ?
瑠衣:……私だって、好きでもない人のこと、ずっと見てたりしないから
陽介:……瑠衣……
瑠衣:準備したらそっち行く
陽介:わかった
瑠衣:……ちゃんと言葉にして聞かせて……
陽介:わかったよ
―幕―
2021.10.29 ボイコネにて投稿
2023.03.09 加筆修正・HP投稿
お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)
Special Thanks:猫又ルッフィー、よふかし様
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