【詳細】
比率:男1:女2
現代・青春
時間:約12分~15分
【あらすじ】
夏休み。
千都は本を借りに2つ隣の駅の私立図書館へと足を運ぶ。
はじめて行く土地。
道に迷い、図書館への道のりを訪ねるために入った喫茶店で千都が出会ったものは……
*こちらは『君の世界の色』シリーズの2話目、『色褪せたキャンバス』の続編でございます。
【登場人物】
千都:白石 千都(しらいし かずと)
高校二年生。
昔は絵を描いていた。コンクールで賞を取ったことがある。
今はあることが原因で絵は描いていない。
先輩の絵美からは「せんと」と呼ばれている。
絵美:廣瀬 絵美(ひろせ えみ)
高校3年生。美術部部長。
昔、千都の絵を見て感動したことがある。
もう一度千都に絵を描いてほしいと願っている。
千都のことを「せんと」と呼んでいる。
蘭:戸松 蘭(とまつ らん)
30代。
夫と小さな喫茶店を営んでいる。
絵美の母親と仲が良く、彼女を小さい時から知っている。
千都:(M)雲一つない空。その下に広がる黄色の絨毯。夏を象徴するそれはただ直向きに憧れを追う
届かないものと知っても、振り向いてすらくれないと知っていてもずっと追いかける
その姿に憧れと絶望を覚えたのは幼き日だった
●夏・午後
ゆっくりとドアを開け、喫茶店に入る千都。店内には誰もいない。
千都:……あの……
返事はない。
千都:(ため息)どうしうよかな……お店、オープンになってたよな……えっと、お邪魔します……
店内中ほどまで入っていく千都。壁にかかっている絵に気が付く。
千都:……雲一つない快晴。本当に澄んだ海みたいな色だな。こっちは、新緑の森か。……綺麗な青だな……
千都が絵に見入っていると店の奥から店主の蘭が出てくる。
蘭:あぁ、お客様、いらっしゃいませ! すみません、出てくるのが遅くなってしまって!
千都:あっ! こちらこそ、勝手すみません
蘭:あ!
千都:え?
蘭:その子たち、気になりました?
千都:え?
蘭:そこに飾ってある子たちです
千都:あぁ、この絵ですか?
蘭:えぇ。絵の前で立ち止まってじっと見てくださっていたから
千都:……
蘭:この子たち。本当に綺麗ですよね。うちでバイトをしてくれてる子が描いたものなんですけど、凄く素敵で。私はこういうものに詳しくはないんですが、眺めていると不思議とすっごく癒されるし、頑張ろうって気持ちをもらえたりするんですよね
千都:(無意識に)……わかります
蘭:え?
千都:あ、いえ、何でもないです。素敵な絵ですね
蘭:(微笑む)
千都:あ、あの……
蘭:はい?
千都:すいません。ちょっと道をお訊ねしたいんですが……
蘭:あぁ、すみません! 一人でべらべらとおしゃべりしてしまって
千都:いえ
蘭:ここら辺は初めていらっしゃるんですか?
千都:はい
蘭:じゃあ、もしかして、行きたい場所は小早川私立図書館ですか?
千都:え?
蘭:あら、違いました?
千都:いえ、その通りです
蘭:やっぱり! あそこの図書館わかりにくいですもんね
千都:……どうしてわかったんですか?
蘭:だって、この辺りで道を聞かれる場所って言ったらあの私立図書館くらいですもの
千都:そうなんですか?
蘭:えぇ。だって、ここら辺は駅から離れたただの住宅街ですから。だから、この付近だと習いごとの教室か図書館くらいしか道なんて聞かれませんよ
千都:なるほど……
蘭:小早川私立図書館はここからもうちょっと先に行ったところです。ちょっと奥まった路地にあって初めての人はわかりにくいんですよ
千都:そうなんですか
蘭:(考え込む)う~ん……
千都:どうされましたか?
蘭:……お客様、図書館にお急ぎのご用事ですか?
千都:え?
蘭:この後、ご予定があったりとか
千都:いえ、今日はここの図書館に行くくらいしか……
蘭:なら良かった!
千都:え?
蘭:もうちょっとしたらアルバイトちゃんが来てくれるんです。そうしたら図書館までご案内します
千都:そんな、大丈夫ですよ!
蘭:だって、この暑い中、また迷うことになるかもってわかっているのに送り出すのはちょっと嫌ですもの
千都:でも、そんな……
蘭:じゃあ、こうしましょう
千都:え?
蘭:図書館まで貴方をお送りするのは、この子たちを気にいってくれたお礼と、私とお話してくださったお礼です。それと……
千都:はい
蘭:(微笑んで)ついでに、アルバイトちゃんが来てくれるまで、私とお話しくれたらもっと嬉しいです
●数十分後
店内で楽し気に話す蘭と千都。
勢いよくドアが開く。
絵美:おはようございます! って、白石千都(せんと)!
千都:廣瀬先輩!
蘭:おはよう、絵美ちゃん。あら、二人は知り合い?
千都:……高校の先輩です……
蘭:そうなんだ
絵美:なんで白石千都(せんと)がここに!
蘭:せんと?
千都:……俺の名前、みたいです……
蘭:あら? でも、お名前……
千都:かずとです
蘭:よね?
千都:俺の字、千の都って書いてかずとなので……
蘭:あぁ、なるほど……
千都:(ため息をついて)廣瀬先輩、流石に学校の外でその呼び方はやめてください
絵美:あぁ、ごめん! って、そうじゃなくて、何で千都(せんと)がここにいるんだ!
千都:……
蘭:(苦笑しながら)絵美ちゃん、言われた傍から
絵美:あっ!
蘭:もう……絵美ちゃん、都君はね、ちょうど道に迷っててね
絵美:ら、蘭さん? 道に迷うのにちょうどとかあるの?
蘭:(無視して)それで、たまたまうちの店に寄ってくれたの
絵美:へ、へぇ~
蘭:千都君、もうお知り合いみたいだから紹介はいらないかもだけど……こちら、うちのアルバイトちゃんの廣瀬絵美ちゃん。そこにいる子たちのお母さんよ
千都:……え? お母さんってことは……
蘭:そう、その絵を描いたのは絵美ちゃんよ
千都:えぇ!
絵美:「えぇ!」とは心外だな。私だって美術部の部長なんだ。絵は描くさ
千都:……
蘭:(微笑んで)千都君、絵美ちゃんの絵好きになってくれたみたいよ
絵美:え?
千都:(焦って)あっ、ら、蘭さん!
絵美:(食い気味に)本当か!
千都:……
蘭:絵美ちゃんの絵、すっごく熱心に見てくれていたもの
絵美:そうなのか! 白石千都(せんと)……
千都:お断りします
絵美:え?
千都:え?
絵美:何を?
千都:何をって、廣瀬先輩、いつもみたいに俺を美術部に勧誘するつもりだったんじゃ……
絵美:どうしてそうなる!
千都:……日頃の条件反射です
蘭:絵美ちゃん、一体どんな学校生活を送っているの……
絵美:ちょっ! 蘭さん!
千都:いつも挨拶の代わりに「我が美術部へ!」と勧誘されます
蘭:(苦笑して)……絵美ちゃん
絵美:し、仕方ないだろう! 私はそれだけ君の絵が好きなんだ!
蘭:君の絵? あら、千都君も絵を描くの?
千都:…昔、描いていたんです……
蘭:……そう
絵美:蘭さん、千都(せんと)の絵は凄いんだ!
蘭:そうなの
絵美:あぁ、だから、嬉しい!
千都:え?
絵美:私が一番好きな絵を描く人間に私の絵を見てもらえて、そして、気に入ってもらえて!
千都:……それは……
絵美:そうだ!
千都:(食い気味に)お断りします
絵美:違う!
蘭:(苦笑して)これは……一種のトラウマかしら……
絵美:蘭さん! 千都(せんと)も!
千都:違うんですか?
絵美:違う!
千都:じゃあ、何ですか?
絵美:君はこの夏休みの予定、どうなっている?
千都:え?
絵美:暇な日は無いか?
千都:……えっと……
蘭:絵美ちゃん、ちょっと落ち着いて
絵美:え?
蘭:勢いが凄すぎて千都君が困ってるわよ
絵美:えぇ! す、すまん……
千都:い、いえ……
蘭:絵美ちゃんはどうして千都君の予定を聞きたいの?
絵美:私のアトリエに来てほしい!
千都:え?
絵美:アトリエにはいっぱい絵があるんだ! 大きいものも小さいものも、これまで描いてきたものが沢山! それを千都(せんと)に見てほしい!
千都:絵を?
絵美:今まで千都(せんと)の絵を見たいとばっかり思っていたが、今思った。千都(せんと)に私の絵を見てほしい!
千都:……
絵美:ダメか?
千都:……見るだけなら、かまいません
絵美:本当か!
千都:えぇ
絵美:じゃあ、約束だ!
蘭:……絵美ちゃん
絵美:蘭さん?
蘭:いいの?
絵美:え?
蘭:アトリエに招待して
絵美:……うん!
蘭:そう……
千都:ん?
蘭:さてと、千都君、絵美ちゃんが来るまで私の話し相手になってくれてありがとう
千都:いえ
蘭:それじゃ、お約束通り、図書館までご案内するわ。とういうわけで絵美ちゃん、店番よろしくね
絵美:えぇ! もっと千都(せんと)といろいろ話してたかったのに……あ、私が図書館まで案内を……
千都:(遮って)お断りします
絵美:なんでだ!
蘭:(微笑んで)いくら絵美ちゃんでもダメよ。これは、私と千都君のお約束だから
絵美:(頬を膨らまして)む~
蘭:こらこら、フグみたいに膨れないの
絵美:……若い男と出かけたって咲弥さんに言っときますね
蘭:あら、そうしたら、今日の賄いは無しということで
絵美:くぅっ!
千都:……えっと
蘭:あぁ、気にしないで。咲弥は私の夫なんだけど、そんなことで嫉妬するような人じゃないから。さ、行きましょ
千都:は、はい
絵美:あ、千都(せんと)!
千都:はい
絵美:約束したからな! 後で連絡するから!
千都:はい
―幕―
2021.04.19 ボイコネにて投稿
2023.03.16 加筆修正・HP投稿
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