【詳細】
比率:女2
現代・家族
時間:約8分~10分
【あらすじ】
結婚式の当日の朝。
いちかは改めて母に今までの気持ちを伝えます。
どうしてもあなたに伝えたい言葉があるんです。
【登場人物】
いちか:25歳。今日、結婚式を挙げる。
母:いちかの母。
●自宅・リビング
母を見つめるいちか。
いちか:……お母さん
母:あら、いちか。おはよう
いちか:おはよう……
母:どうしたの? そんな暗い顔をして
いちか:……
母:(微笑んで)もう、そんな暗い顔してちゃダメじゃない。今日は結婚式でしょ。こんなおめでたい日に主役がそんな顔をしてどうするの
いちか:……お母さん……
母:なに?
いちか:今日まで私を育ててくれて、本当にありがとうございました
母:あら、やだ。このタイミングで? 昨日の夜もちゃんと挨拶してくれたじゃない
いちか:式場に行く前にちゃんとした挨拶をしたくて
母:(微笑んで)嬉しい挨拶だけれど、何度聞いても寂しくなっちゃうわ。いちかが私たちの所に生まれてきてくれた時から覚悟はしていたけれど、実際に言われてみると、ね……
いちか:……お母さん
母:もうちょっと先のことかなって思っていたのに、いつの間にかこんなに大きくなって
いちか:こんな日が来るなんて思ってもいなかった
母:そうね
いちか:私、お母さんがお嫁さんになった歳と同じ歳で結婚するんでしょ?
母:そうよ。あの頃のお父さん、今とは違ってスラッとしていて皆から騒がれるくらいだたたのよ?
いちか:全然想像できない……
母:まぁ、今のあの姿からじゃねぇ。でも、今日のために少しだけ頑張ったみたいだから許してあげて
いちか:そして、その二年後に私が生まれて、お母さんはお母さんになったんだよね
母:えぇ
いちか:……お母さん、お母さんはやっぱり凄いよ
母:凄くなんかないわよ
いちか:二十五歳って凄く大人だって思ってたけど、自分が実際になってみるとそんなことなかった。全然子どもだった
母:そんなものよ。お母さんも結婚した時はまだまだ子どもだった
いちか:お母さんみたいに決断を迫られたら、私、きっとどうしていいかわからなくて、泣いてばかりいると思う……
母:大丈夫よ。いちかはお母さんみたいにはならないから。でも、もしもその時が来てしまったら、その時はきっと彼がいちかの支えになってくれる。いちか一人の問題じゃないもの。夫婦の問題は夫婦で解決するものよ。いちかの隣には彼がいてくれる。だから、大丈夫
いちか:……お母さん、ごめんなさい
母:いちか?
いちか:……私のせいで……
母:いちか……
いちか:……私が産まれてこなければ、お母さんは死なずにすんだんだよね?
母:……
いちか:小さい頃はずっと恨んでた。なんで死んじゃったのって? 『お母さんがいない子』になるくらいなら産まれてきたくなかったって……
母:……
いちか:でも、大人になって、結婚するってなって初めてわかったよ。お母さんの気持ち
母:え?
いちか:選んでくれたんだよね? 怖かったのに……自分が死んじゃう確率の方が高かったのに。私を産むことを選んでくれた
母:(優しく微笑んで)あの時は、いちかを産みたいってそれだけしか考えていなかったわ。後のことなんて何も考えていなかった。ただ、貴女に会いたかった。きっと何とかなるってそう思っていたの。ごめんなさい。それが、いちかを苦しめることになるなんて考えてもいなかった。お母さん失格よ
いちか:……お母さん
母:なに?
いちか:私は今日、お父さんとお母さんの子どもを卒業します
母:えぇ
いちか:……卒業って言ったらおかしいけど
母:そうね。いちかはいつまでたっても私とお父さんの子どもよ
いちか:でも、甘えん坊の娘からは卒業する
母:うん
いちか:明日からは彼の妻としてちゃんと彼のことを支えられるようになります
母:あまり気を張らずにね。夫婦はお互いに支え合うものよ。きっと彼となら素敵な家庭を築くことが出来るわ。お母さんとお父さんには負けるかもしれないけれどね
いちか:お母さん
母:はい
いちか:今日まで本当にありがとうございました。これからは、立派な奥さんになれるように見守っていてください
母:(微笑んで)はい。わかりました
いちか:お母さん
母:なに?
いちか:大好きだよ。私を産んでくれてありがとう
母:……こちらこそ。私たちの娘としてここに来てくれてありがとう。いちか、愛しているわ
仏壇のろうそくの火がゆらりと揺れる。
いちか:え? お母さん?
母:(微笑む)
いちか:ありがとう! いってきます!
母:いってらっしゃい
―幕―
2022.03.26 ボイコネにて投稿 『卒業』をテーマにした新騎様主催企画 参加シナリオ
2023.04.11 加筆修正・HP投稿
Special Thanks:新騎様
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