神々の遊戯


【詳細】

比率:男5

ファンタジー

時間:約45分


【あらすじ】

リンから緊急招集をされたロン、シュウ、フー、ショアンの四人。

何かしらの緊急事態かと緊張が走る中、リンから発せられた言葉は……



【登場人物】

  ロン:眼鏡の男。真面目な完璧主義者。

 

 シュウ:美しい男。外見からは一見して男性か女性か判断が付かない。

     本当に名前はジュークだが、皆にはシュウと呼ばせている。


  フー:がたいのいい男。左目のあたりに大きな古傷がある。

     一見して怖そうだが、実は優しい。


ショアン:いつも笑顔の男。その表情からは本心を読み取ることは出来ない。


  リン:穏やかな男。今回のゲームの発起人。




●リンの屋敷・客間

   大きなテーブルが置かれ、その周りに四人の男たちが集まっている。

   ドアをノックする音。

   屋敷の主であるリンがドアを開ける。


  ロン:(少し息を乱しながら)すみません、遅くなりました

  リン:ロン、遅くなんてありませんよ。急なお声がけをしてしまってすみません

  ロン:いえ、時間に遅れたのは事実です。申し訳ありません

 シュウ:(面白そうに微笑みながら)あら、相変わらず真面目ね、ロンちゃんは

  ロン:……シュウ、もう来ていたのですか……

 シュウ:えぇ、もちろん。だって、リンちゃん直々のお誘いだからね。遅れるわけにはいかないわ

ショアン:仕事をさぼってでも来なくちゃねぇ

  フー:ショアン、仕事はきちんと片付けてから来い

  リン:そうですね。お仕事はちゃんとしてきてくれないと困っちゃいますね

ショアン:もう! フーもリンも真面目だなぁ。大丈夫だよ。ちゃんと僕がやらなくちゃいけない仕事は終わらせてきたから。後はあの子の仕事。過保護にするだけじゃ立派な子に育たないからね

 シュウ:物は言いようね

ショアン:なにさ! ジュークだって前にそう言ってたじゃん!

 シュウ:ちょっと! その名前で呼ぶのはやめてって言ってるでしょ?

ショアン:なんで? ジュークおじさん

 シュウ:……てめぇ……

  フー:やめろ、二人とも


   リン、軽く手を叩く。


  リン:はいはい、お二人とも、そこまでですよ

  ロン:私以外到着していたんですね。お待たせしてしまって……

  フー:気にするな。世間話をしていただけだ

  リン:えぇ、皆さんと新しい茶葉を試していました。さぁ、いつまでも立ってお話なんてあれですから、どうぞ座ってください

  ロン:ありがとうございます


   ロン、席に着く。

   フーがスッとロンにお茶を渡す。


  フー:淹れたてではなくてすまない

  ロン:いえ、ありがとうございます

 シュウ:さてと……これで全員そろったわね

  リン:はい

  フー:それで、今日の招集の本題は?

 シュウ:リンちゃんからの緊急招集だものね

ショアン:何かあったの?

  リン:……実は……


   四人、リンを静かに見つめる。


  リン:(にっこりと微笑んで)何もありません

ロン・シュウ・フー・ショアン:は?/は?/……/はぁ?

  リン:ですから、何もありません

 シュウ:ちょ、ちょっと待って、リンちゃん

  リン:はい

ショアン:何もないのに僕たちを集めたの?

  リン:はい

  フー:……

  ロン:……説明をしていただいても?

ショアン:ちょっと、ロン。聞いてなかったの? リンは何もないって言ったんだよ?

  ロン:えぇ、それは確かに聞きました

ショアン:だったら……

  ロン:(遮って)ですが、本当に何もなければ私たちを招集したりはしないでしょう? ですよね、リン様

  リン:(にっこりと微笑む)流石ですね、ロン

 シュウ:じゃあ、何かあったってこと?

  リン:う~ん、何かあったわけではないんです

ショアン:じゃあ、なんで僕たちを集めたの?

  リン:ゲームをしませんか?

ロン・シュウ・フー・ショアン:……/は?/……/はぁ?

 シュウ:ちょっと、リンちゃん? いくら天然さんでもこれは……

  ロン:それがお答えですか?

  リン:はい

ショアン:いやいやいや、どういうこと? 僕、全く分からないんだけど?

  リン:最近、この世界は凄く平和です

 シュウ:そうね。ちょっとしたいざこざは見受けられるけど、そこまで大きな問題に発展している所は今のところないわね

ショアン:僕の所も天候の問題とかはたまにあるけど、人同士の争いは少なくなったかな

  フー:同じく

  ロン:えぇ

  リン:これも皆さんの日頃からのお力添えのおかげだと思っています

ショアン:それで? 平和から何故、ゲーム?

 シュウ:話が全く見えないわよね?

ショアン:うん

  リン:だからこそです

ショアン:え?

  リン:このまま平和が続くのは喜ばしい事ですが、平和が続きすぎると人はそれに慣れてしまいます

  フー:危機感が薄まれば、些細な変化にも気づきにくくなる

  リン:その通りです

  ロン:だから、ゲームを?

  リン:そうです。でも、ただゲームをするだけじゃ意味がない

 シュウ:そりゃそうよね。確かにゲームに勝ち負けは必然的について来るものだけど、それだけじゃ危機感がどうとかって問題は解決しないでしょうし……

  リン:はい。ですから、貴方方には一番大切なものを賭けていただきます

 シュウ・ショアン:はぁ?

  ロン:……正気ですか?

  リン:もちろん

  フー:我々の神子を賭けろと?

  リン:はい

ショアン:そんなの嫌だよ!

 シュウ:私もよ! そんなの誰が承知すると思ってんの!

  リン:ショアン、シュウ、話しは最後まで聞いてください。人の話を最後まで聞くということは、物事を判断するのに一番大事なことですよ

ショアン:黙って聞いていられるわけないだろ! 僕の大事な子だよ!

 シュウ:そうよ! 私の可愛い子の命を賭けるなんて!

  リン:「命を」とは言っていませんよ?

 シュウ:え?

  リン:確かに貴方方の「大切なもの」、「自らの神子」を賭けろとは言いました。ですが、だからと言ってその命を奪おうなんて考えていません。彼女たちの命は彼女たちのもの。彼女たち自身とは関係ないところで彼女たちのものを奪うなんて非道なことはしません

ショアン:じゃ、じゃあ……

  リン:そうですねぇ。賭けるのは神子の一日分の時間。勝者は他の者の神子を一日好きにしていいと言うのはどうでしょうか?

  ロン:はぁ! そんなの反対です!

  リン:ロン?

  ロン:……私の神子を誰かになんて……フー様ならばともかく、この二人の元へなど行かせたら、何をされるか!

 シュウ:ちょっと、聞き捨てならないわね!

ショアン:そうだよ! フーはともかくって、僕たちをなんだと思ってるの?

  フー:日頃の行いのせいだろう

シュウ・ショアン:うるさい!

  ロン:とにかく! 私は反対です!

  リン:……

  フー:一つ聞かせてくれ

  リン:なんでしょう?

  フー:リン殿も自分の神子を賭けるのか?

  リン:いいえ

シュウ・ショアン:はぁ?

  リン:私はこのゲームの提案者。いわば中立の立場にいる者です。中立たる者が賭けに参加するわけにはいかないでしょう?

  フー:……

ショアン:そんなのずるいじゃないか!

 シュウ:そうよ! 自分だけ安全な場所にいて勝負を見ているなんて!

  リン:それが、私の本来の役目ですから

 シュウ:……

ショアン:……

  フー:……承知した

  ロン:フー様!

 シュウ:ちょっと、フーちゃん?

ショアン:本気なの!

  フー:リン殿の言葉は絶対だ。それはいついかなる時でも変わらない

 シュウ:でも!

  フー:それが善なるものから外れていない限りは

ショアン:今回のはどう考えてもただの悪ふざけでしょ!

  フー:俺はリン殿が何の考えもなくこのようなことを言い出すとは思えない。それに、確かに平和に慣れ過ぎているというのは事実だ。であれば、今回の申し出、受けるのが筋

  リン:(にこりと微笑む)

ショアン:でも!

  フー:それに……

 シュウ:それに?

  フー:勝負に己が勝てばいいだけの話。己の神子を守るため、主が戦う。当然のことだ

ショアン:それは、そうだけど……

  フー:それとも、他の者たちはこの勝負に勝つ気がしないと言うことかな?

  ロン:……聞き捨てなりませんね……

 シュウ:ロンちゃん?

  ロン:私が負けることなどありえません。私の神子は私が守ります。どんな者が相手であろうとも負けることなどありはしない!

ショアン:ぼ、僕だって! ここの誰にも負けるなんてしない!

  リン:(満足そうに微笑む)

 シュウ:(小さくため息をついて)ロンちゃん、ショアンちゃん……あんたたちね……フー?

  フー:なんだ?

 シュウ:あんたは一体リンちゃんの言葉に何を見たの?

  フー:何も。ただ、我らが長の提案に乗ったまで

 シュウ:……あんたって、真面目なんだかなんなんだか……

  リン:シュウはどうしますか?

 シュウ:あぁ、もう! ここまで来たら、私だけ乗らないなんて出来ないでしょ! 参加するわよ! ただし! うちの子を傷つけるよなことしたら……その時は……

  リン:神に誓って、そのようなことにはなりませんよ

 シュウ:……ならいいわ

  ロン:それで、何で勝負をするのですか?

  リン:そうですねぇ。今流行りのカードを使ったゲームなんてどうでしょうか?

 シュウ:私は別にそれでもいいけど……

  フー:俺も異論はない

  ロン:私もです

ショアン:僕だって!

  リン:さぁ、では、さっそく始めましょうか。


   四人、改めて席に着く。

   リン、懐からトランプを出し、シャッフルする。


 シュウ:なるほど……その手際の良さ、本当にはじめからそのために呼んだってことね

  リン:(意味ありげに微笑む)


   それぞれに手札を二枚配る。


 シュウ:へぇ、それぞれに二枚の手札……このゲームか

  ロン:……珍しいですね

ショアン:……

 シュウ:あら? どうしたの、ショアンちゃん?

ショアン:な、なんでもない!

  ロン:始まる前から戦意喪失ですか?

ショアン:そ、そんなわけないだろ!

  フー:心を乱されては、いけない

ショアン:わ、わかってるよ! 

 シュウ:それで? ここにコインはないけど……何を賭けるのかしら?

  リン:そうですねぇ。この勝負にお金をかけるなんて無粋なことはしたくはありません

  ロン:では……

  リン:ですから、こうしましょう。ゲームを続ける際には自身の神子の好きな点を挙げる

ショアン:はぁ?

  ロン:なっ!

  リン:いくつ挙げていただいてもかまいません。ですが、本来のコインと同じように同じ数だけ挙げていただきましょう。もしも挙げることが出来なかったら……その時は勝負を降りたとみなします

ショアン:そんな! 卑怯だぞ!

  リン:おや? ショアンは自信がないのですか? では、最初からゲームに参加するのをやめますか?

 シュウ:さっき、「ここの誰にも負けない!」って宣言したばかりなのにねぇ

ショアン:くっ! やってやるよ! 僕を見くびるな!

  フー:リン殿

  リン:なんですか、フー

  フー:長い時間我が屋敷を離れていては神子にいらぬ心配をかけてしまうことになるだろう。勝負はこの一戦にしていただきたい

 シュウ:ちょっと、いいの?

  フー:何がだ?

 シュウ:一発勝負なんて、配られたこの手元のカードが弱かったら一瞬で終わりよ?

  フー:そうだな

  ロン:それだけフー様は自信がおありだと言うことですか?

  フー:いや

  ロン:ではなぜ?

  フー:(リンを見据えて)先ほども言っただろう。リン殿は何もなく我らを招集したりなどしない

  リン:(意味ありげに微笑む)

ショアン:フーはリンのことかい被りすぎだよ。今回は本当に何も考えてないって……

  フー:一戦でお願い出来ないだろうか?

  ロン:私からもお願いいたします

ショアン:ちょっと、ロン?

  ロン:フー様のおっしゃる通りだ。長い時間私たちが屋敷を離れれば、何か一大事があったのかもしれないと神子を心配させることになってしまう。今回のように緊急の招集ならば尚更だ

 シュウ:……なるほどねぇ……わかった、私も一発勝負でいいわ。ショアンちゃんもいいでしょ?

ショアン:わかったよ!

  リン:(にっこりと微笑んで)では、始めましょう


   各々、自分の手札を確認する。


  リン:この順番だと……

 シュウ:私が最初に好きな所を挙げる数を決められるってことかしら?

ショアン:げっ!

 シュウ:ちょっと、げってなによ?

ショアン:……べ、別に……

  リン:そうですね。では、シュウからお願いいたします

 シュウ:そうねぇ。最初からエンジンかけたらついて来られない子もいるかもしれないから……軽めにしとくわね。一つ目は、ありきたりだけどあの笑顔かしら。どんな辛いことがあってもあの笑顔を守れるのなら、私はなんでもするわ。二つ目はあの強い意志かしら。自分が曲げられないものは絶対に譲らないところ。たまに「どうして?」って思っちゃうこともあるけれど、やっぱり私はそこが好きなのよねぇ。まぁ、最初はこれくらいかしら? さぁ、お次はショアンちゃん、どうぞ?

ショアン:っ! ……僕は……


   少しの間。


  ロン:ショアン?

 シュウ:あら? 恥ずかしくて言えないの? それなら……

ショアン:言う! それくらい言える! ……僕があの子の好きなところは……笑顔だ……

 シュウ:あら?

ショアン:なんだよ! かぶってちゃダメかよ!

 シュウ:さぁ? リンちゃん的にはどう?

  リン:それがショアンの本心であれば

 シュウ:だってさ、よかったわね。さぁ、続けて?

ショアン:もう言っただろう!

 シュウ:あら? 理由までこみじゃなきゃ……ねぇ?

  ロン:そうですね

  フー:そうだな

ショアン:……覚えてろよ……

 シュウ:それで?

ショアン:……あの子の笑顔を見ると嬉しくなるんだ……あの子、単細胞だから! 裏表なんて作れないから。だから、あの笑顔が本物だって分かるから……だから、あの顔が見られると嬉しくなる……っ! これでいいかよ!

  リン:えぇ

 シュウ:なんだ、やれば出来るじゃない

ショアン:うるさい! ジューク!

 シュウ:はぁ?

  リン:(小さくため息をついて)先ほどまでいい空気だったのに……

  フー:今に始まったことではないだろう

  リン:ですね。では、次は……

  ロン:私ですね

  リン:えぇ

  ロン:では、降りはしませんので私からも二つ。一つは、聡明な所です。私と同じ感覚で仕事の話を出来るのは神子のみ。とても貴重な存在です

 シュウ:ちょっと……

  ロン:なんですか?

 シュウ:それって本当にあの子のこと好きなところなの?

  ロン:は?

 シュウ:だって、それって仕事の上でってことでしょ? ロンちゃんの所には優秀な人がいっぱいいるじゃない。その人たちと何が違うのかしら?

ショアン:確かに~

  ロン:違いますね

 シュウ:へぇ

  ロン:確かに私の元にはありがたいことに優秀な人材が揃っています。ですが、私と対等に話が出来るのは神子のみです。良いと思ったことも悪いと思ったことも忌憚なく意見を交わせる。これほど私のパートナーとして重要なことがありますか?

ショアン:……ごめん、僕にはちょっとよくわからないや

  ロン:仕事を神子に押し付けてくるような者にはきっとわかりませんよ

ショアン:はぁ?

 シュウ:はいはい、喧嘩しない。じゃあ、とりあえず、一個目はそれでいいとしてもう一つは?

  ロン:……お二人と被るのは不本意ですが、やはり笑顔でしょうか。私が仕事で褒めたときに少し恥ずかしそうに控えめに微笑むあの顔が好きです

 シュウ:な、なるほどね……

  ロン:なにか?

 シュウ:いや、ロンちゃんはどこまで行っても仕事が絡んでくるんだなって

  ロン:いけませんか?

 シュウ:う~ん……

  リン:いいのではないですか? それがロンらしさなのですから

  ロン:リン様

  リン:では、次はフーの番ですね

  フー:あぁ……神子の好きな所か……

 シュウ:ちょっとフーちゃんからは想像できないわね。こういう話

ショアン:確かに。こういうの言ってるイメージないもんねぇ。難しかったらいいんだよ?

 シュウ:ちょっと、ショアンちゃん。あんた、自分が勝てそうにないからってそういうのかっこ悪いわよ?

ショアン:はぁ? そんなつもりないし!

  ロン:しっ! 二人ともお静かに。フー様、どうぞ続けてください

 シュウ:おっと、意外にロンちゃんが鬼畜ねぇ

ショアン:だね

  ロン:シュウ、ショアン?

 シュウ:……

ショアン:……

  リン:それで? いかがですか、フー

  フー:そうだな。ありすぎて何から言ったらいいのか分からないが……可愛らしいところだろうか

 シュウ:ちょっと! ざっくりしすぎてるわよ!

ショアン:ずるい! 具体的には?

  フー:具体的に……神子の全てが可愛らしいのだが……強いて言うのならば、あの小さいとこだろうか

  ロン:小さい?

  フー:あぁ、あのようにか弱い体で自分の責務を全うしようと懸命に頑張る姿は愛おしいと思う。俺が守るべき存在だと思うんだ

 シュウ:なるほどね。確かに、フーちゃんは大きくてがたいもいいから神子ちゃんが小さく見えるわよね

  フー:あぁ。全てが愛おしいと思う

ロン・シュウ・ショアン:……

  フー:ん? どうした?

  リン:(微笑んで)大丈夫ですよ。フー、気にしないでください

  フー:そうか?

  リン:では、最後。ショアン

ショアン:……うっ……

  リン:もう一つ、ないし、その上でもいいですよ?

 シュウ:さぁ、どうする?

ショアン:ふんっ! 最初からとばしたら後々お前たちが困るだろ。だから、このターンは一個言うだけで勘弁してやるよ

 シュウ:あら、残念

  リン:では、どうぞ?

ショアン:……あの子の好きな所は……手、かな……

 シュウ:ふ~ん……で、具体的には?

ショアン:うるさいな! 今から言うから待ってろ!

 シュウ:はいはい

ショアン:……あの子の手は温かいんだ。触れられただけで安心できる。僕の中にあるもやもやしたものを一瞬で持って行ってくれるんだ……だから……あの手が好きだ! 以上!

  リン:(にっこり微笑んで)はい、ありがとうございます。シュウ、次はどうされますか?

 シュウ:何もしない

  リン:かしこまりました。では、皆さん続投ということで……ここに三枚のカードを失礼しますね


   リン、三枚のカードをテーブルに置く。


  リン:では、ショアン。どうぞ

ショアン:僕から!

 シュウ:順番的にはそうね? あら? もう降参?

ショアン:するか! 僕は優しいからな。今回はハードルを低くしてあげるよ

  ロン:手加減は必要ありませんよ?

ショアン:え?

  ロン:私はここの誰よりも神子のことを愛しています。この時点で負けるつもりはありません。腹立たしいのはカードが全て配られた後は運しだいということだけです

  フー:俺も手加減はいらない。勝負事だからな

 シュウ:だってよ? ショアンちゃん

ショアン:う、うるさい! これは僕の優しさだよ。最後までみんなでやらなきゃ楽しくないだろう?

 シュウ:はいはい。じゃあ、優しいショアンちゃん、どうぞ?

ショアン:ふ、ふん! ねぇ、リン

  リン:なんでしょう?

ショアン:これって縛りって出来るの?

  リン;縛りですか?

ショアン:そう、例えば……この回だけ、身体の一部に限定して、被りは無し!

 シュウ:ちょっと!

ショアン:なに?

 シュウ:それはあんたが有利すぎるでしょ!

ショアン:別にいいじゃん。あ、それとも……自信ないのかな? ジューク

 シュウ:……いい度胸してるじゃねぇか……やってやるよ

ショアン:ってことで、どうかな? リン

  リン:(楽しそうに微笑んで)えぇ、楽しそうだからいいですよ。このターンだけそうしましょう

ショアン:おっけ~、じゃあ、僕からだね

  ロン:おや? 随分と自信ありげですね?

ショアン:これはもう公言してるからね。僕はあの子の目が好きだ

  ロン:なるほど。だからもう恥ずかしくはないと言うことですね

 シュウ:(鼻で笑って)ガキね

ショアン:はぁ?

 シュウ:自分の秘めていた想いを言うのが恥ずかしくてそんなズルいことするなんて、ガキのやることだって言ってんのよ。これだからお子様は……

ショアン:なんだよ! じゃあ、お前はどこが好きなのかはっきり言えるのかよ!

 シュウ:言えるわよ

ショアン:へぇ、じゃあ、どうぞ?

 シュウ:(咳ばらいをして)私が好きなのは、あの子の唇よ

ショアン:へ?

  フー:ほぅ

 シュウ:そこから紡ぎ出されるあの子の言葉、あの子の声が好き

ショアン:な、なんだ……そういうこと……

 シュウ:(遮って)もちろん、あの柔らかさも、ね

ショアン:はぁ! お前、神子に何してるんだよ!

 シュウ:なにって……そりゃぁ……

ショアン:待って! 言うな!

 シュウ:あら、どうして? 愛おしい子に口づけをしてはいけないの?

ショアン:……っ……

  ロン:いけないと言うことはありませんが、それを公言するのはどうかと思いますよ

 シュウ:公言なんてしてないわよ。ここには自分と同じ立場の人間しかいない。愛おしい自分の神子を持つ者だけの会での秘密の告白よ。でも、これ以上は控えさせていただくわ。次にあの子を見たときに視線が唇に行ってしまったら……どうなるかわからないからね、私が

  ロン:(ため息をつき)まったく……

  リン:良いではありませんか。普段、惚気ることが出来ない分、ここではどうぞ自由に、ね

  ロン:……そうですか……

  リン:はい。では、次はロンの番ですね

  ロン:私ももちろん降りる気はありませんので

  リン:では、どうぞ

  ロン:私は彼女の手が好きです

ショアン:あぁ、ロン! それは僕が言ってるよ?

  ロン:えぇ、ですがそれは今の前のターンの話。このターンのルールには触れないはずです

  リン:そうですね

ショアン:くっ!

 シュウ:残念だったわね

ショアン:うるさい!

  ロン:続けてもいいですか?

  リン:えぇ

  ロン:彼女の指は繊細で、その指が綴る字はとても美しい

 シュウ:……

  ロン:なんですか? シュウ

 シュウ:うん、なんかわかっていたけど……うん……どうぞ、続けて

  ロン:? えぇ、それに彼女の手から生み出されるものは全てが輝いて見えます

  フー:例えば?

  ロン:そうですね……彼女の作ってくれる菓子は全てが美味しいです

 シュウ:菓子? ロンちゃんってそういうの食べないんじゃなかったの?

  リン:確かに、これまであまり聞いたことはありませんね

  ロン:普段は絶対に口にしませんが、彼女のものは特別です。それに……

  フー:それに?

  ロン:彼女が手ずから作ってくれたものを他の者に渡すなんて出来ません

ショアン:……お、おぉ……

  ロン:もしも私以外に彼女からの物をもらっているような奴がいれば……その時は……

 シュウ:ちょっ! 急に物騒よ?

  ロン:そうでしょうか?

ショアン:そうだよ!

  ロン:まぁ、居ればという仮定の話です。私からは以上です

  リン:ありがとうございます。では、次は……

  フー:俺だな

  リン:えぇ

  フー:俺は神子の髪が好きだ

ショアン:髪?

  フー:あぁ、とても甘い香りがする

ショアン:な、なるほど?

  フー:それに陽の光の元で見るそれはとても美しいのだ。輝く神子を見ていると愛おしくてたまらない

 シュウ:……なんか……流石フーちゃん……

  フー:そうか?

 シュウ:えぇ……短い言葉に全てが詰まっているわ……

  フー:(嬉しそうに微笑む)

  リン:では、皆さんに一つずつ、上げていただいたので、ここにもう一枚カードを……

   

   リン、一枚カードをテーブルに出す。

   その瞬間、異なる鈴の音が二つ聞こえる。

   ハッと顔を強張らせるショアンとロン。

 

  リン:この鈴の音は……

ショアン:僕の神子からだ!

  ロン:私の神子の鈴の音です


   二人、なんの躊躇いもなく席を立つ。


ショアン:リン、ごめん! 僕、帰る!

  ロン:私もっ!

  リン:えぇ

ショアン:じゃあねっ!


   ロンとショアン、部屋を出ていく。


  リン:さてと……

 シュウ:ねぇ、リンちゃん

  リン:はい

 シュウ:あの二人も帰ったことだし、そろそろネタバラシしてくれてもいいんじゃない?

  リン:……

  フー:ネタバラシ?

 シュウ:そう。私たちをここに集めてこのゲームをしようとした本当の理由をね

  リン:(苦笑して)おや、やっぱりシュウには気付かれてしましたか……

 シュウ:最初から……とまではいかないけど、なんとなくね。うちの子からもちょっと話を聞いていたし?

  リン:そうですか

  フー:なんのことだ?

  リン:フー、すみません。今日のゲームはゲーム自体が目的ではなかったんです

  フー:?

  リン:実は、私の神子からとある相談を受けまして

  フー:相談?

  リン:自分の主が自分のことをどう思っているのか分からない。だから、不安だと

  フー:不安?

 シュウ:……なるほどね。そういうことか

  フー:シュウは分かったのか?

 シュウ:えぇ。きっと、普段そういう態度も言葉も出せない誰かさんたちの神子が寂しい思いをしてしまっていたんでしょう? だから、今日ここに集めて神子への思いを形にして見せた。文字通り、神子たちへ

  フー:神子たちへ?

 シュウ:きっと、この部屋の光景をリンちゃんとリンちゃんの神子ちゃんの力を使って他の神子たちに送っていたのよね? で、各々よきタイミングで鈴を鳴らせって事にしといた。あの鈴は己の神子に何かあったときになるもの。鳴ればすぐに駆け付ける。上手い事ゲームを終わらせるためにね

  フー:……なるほど?

  リン:シュウには敵いませんね

 シュウ:最初のベットの条件を聞いた時からなんとなくね。確信はなかったけど

  フー:……そうか……

 シュウ:フーちゃん?

  フー:……俺は神子のことを不安にさせていたのか……

 シュウ:フーちゃんはそんなことないと思うわよ。確かに、私たちの中で一番感情の起伏が見えにくいけれど、貴方の行動には温かさがある。きっとそれを神子ちゃんも感じてくれてるはずよ

  フー:(静かに嬉しそうに)……そうか

 シュウ:(微笑んで)でも、たまにはこうやって言葉にすることは大事よね

  リン:その通りですね。神子は私たち五獣とは違う。言葉や行動にしなくては伝わらないですから

  フー:そうだな。神子、すまない


   優しい鈴の音がなる。


 シュウ:(微笑んで)フーちゃんの神子ちゃんからの鈴の音ね

  フー:あぁ

 シュウ:早く帰って抱きしめてあげなさいな

  フー:あぁ、それでは失礼する


   フー、部屋を出ていく。


 シュウ:(息をつく)

  リン:シュウ

 シュウ:な~に、リンちゃん

  リン:今日は本当に助かりました。貴方がいてくれたから上手く事が進みました

 シュウ:こちらこそよ

  リン:え?

 シュウ:今日のことで改めてあの子の大切さに気付かされたわ

  リン:おや? シュウの神子からは不安という言葉は聞いていませんでしたが……

 シュウ:もちろん、私はちゃんと言葉や行動で伝えてるからね。でも、それだけじゃダメね

  リン:ダメですか?

 シュウ:えぇ、いつも隣にいてくれるのが当たり前、今のこの幸せが当たり前なんて思っちゃダメ

  リン:……そうですね

 シュウ:だから、今から私も帰るわ。帰ったらいっぱい甘やかしちゃうんだから。覚悟してなさいな


   控えめにちりんと鈴が鳴る。

   優しく微笑むシュウ。


 シュウ:じゃ、帰るわね。リンちゃんの神子ちゃんにもよろしく伝えておいて

  リン:わかりました

   シュウ、部屋を出る。


   一人残される、リン。


  リン:力を貸してくださってありがとうございます。もう大丈夫ですよ


   小さく鈴が鳴る。


  リン:あとで私も貴女のもとへ行きますね



―幕―


ここから先は、お使いいただいてもいただかなくても大丈夫です。

せっかくなので、おまけな感じで!

この会合の後、それぞれの神子との会話でございます。



●ロンの場合

ロン:神子! 何かあったのですか……って、どうしたのですか……

   君が泣いてしまうくらい酷いことが……?

   何があったのですか!

   ……え? 違う?

   嬉し涙? それは、どういう……

   (神子が胸に飛び込んでくる)おっと……どうしたんですか?

   ……泣いてばかりではわかりませんよ?

   ……仕方のない人だ……

   何かあったわけでは本当にないんですね?

   それならば、今は何も聞きません

   ただ、私の腕の中にいればいい



●ショアンの場合

ショアン:ちょっと! 何があったの! 敵? それとも……

     って、なんでそんな部屋の隅っこで小さくなってるのさ

     来ないでって……僕を呼んだのはお前だろう!

     え? なんでそんな顔赤くしてんの?

     はぁ? 意味わかんなんだけど……

     とりあえず、何かあったわけじゃないってのは分かったよ

     急に鈴鳴らすなよ、びっくりしただろ

     ……あ……ゲーム……

     だ~! もう知らない! あんなのどうせ誰かのおふざけだろ!

     おい! この後誰かここを訪ねてきてもお前は絶対に出るなよ?

     お前を持ってかれてたまるか!



●フーの場合

フー:神子、今帰った

   ん? どうした? 何故そのような暗い顔をしている?

   あぁ、今日のことか

   お前が気にすることではない

   俺も……すまなかった……

   自分の感情が伝わりにくいのはわかってはいたが……

   (神子がそっと寄り添ってくる)あ……

   ありがとう

   その、抱き締めてもかまわないだろうか?

   (そっと抱きしめる)神子……お前のことが何よりも大切なんだ

   愛しい、我が神子よ



●シュウの場合

シュウ:は~い、ただいま~

    私の神子ちゃんは今日も可愛いわね

    今日はありがとうね。あんたとリンちゃんの神子ちゃんが考えてくれたんでしょ?

    神子は神獣の番。神子の心は私たちにも影響が出るからね

    ショアンちゃんも、ロンちゃんも素直じゃないし。今日はいい機会だったと思うわ

    でも……

    (神子を少し強引に引き寄せて)最初に頼ったのが俺じゃないってことだけは嫌だったかな

    事情も察せられたし、仕方ないのはわかってるけどな

    なぁ、俺の神子

    愛している。ずっと俺の傍にいてくれ



●リンの場合

リン:(ドアをノックする)失礼します

   (ドアを開ける)今日はお疲れ様でした。身体、辛くはありませんか?

   長時間でないとはいえ、神子たちへつないでいただいた

   負担は相当だったでしょう

   (優しく微笑む)優しいのですね、私の神子は

   ねぇ、神子

   私はちゃんとあなたに想いを届けられているでしょうか……

   (微笑んで)ありがとうございます

   私も、誰よりもあなたが大切です。愛おしい私の神子




2023.05.04 HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

Special Thanks:JUN様、chankove様、eikin様

紅く色づく季節

こちらは紅山楓のシナリオを投稿しております。 ご使用の際は、『シナリオの使用について』をお読みくださいませ。 どうぞ、よろしくお願いいたします!

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