【詳細】
比率:女1
現代・ラブストーリー
時間:約5分
【あらすじ】
応えられないと分かっているのに求めてしまう。
一人の女性の物語。
【登場人物】
私:応えられないと分かっているのに求めてしまう女性。
私:
私はずるい女だ
あなたの想いに応えられないことをわかっているのに、あなたの言葉が、声が欲しいと願ってしまう
初めてあなたと会ったのは繁華街の片隅でひっそりと営業をしているバーだった
一人で強いお酒を飲んでいた私にあなたは声をかけてくれた
「おひとりですか?」
初めて聞いた声のはずなのに、どこか懐かしいような、私の何かにピタリとはまる声で
その瞬間、私はあなたの声に落ちていた
二度目に会ったのもあのバーだった
入って来ると同時に、カウンターで一人で飲む私を見つけたあなたは、薄暗い店内でもわかるほどまばゆい微笑みを私に向けてくれた
「今日もおひとりなんですか?」
優しい声色のあなたにクスリと笑い私はそっと席を立った
ずっとあなたの声を聞いているわけにはいかない
戻ることが出来なくなってしまう
優しい声とまぶしい笑顔を持つあなたにこれ以上関わるわけにはいかない
私とは違って青い空が似合う素敵な人
私が汚すわけにはいかないから
三度目は夜の公園だった
なんとなくあの家にいたくなくて逃げてきた公園
そんなところでまさかあなたに会うなんて思わなかった
「どうかされたんですか?」
ベンチにうつむいて座っていた私に心配そうに声をかけてくれた
顔を見なくてもあなただということはすぐに分かった
あなたのその声を私が間違えるはずがない
「いえ、大丈夫です」
顔を上げずに答えた
こんな顔、彼に見せるわけにはいかない
なんの仮面もかぶっていない醜い私なんて見せられない
けど、彼はすぐに私だと気づいたようだった
「こんな時間に外に女性一人は危ないですから」
何の躊躇いもなしに私の隣に座る彼
それから、とりとめのない会話をした
私は頷くか、首を振るかしかできなかったけど、そんな私に彼はにこにこと笑顔で話しかけてくれた
そして別れ際、スッと何かが書かれたメモを渡された
「これ、よかったら僕の連絡先です。何か困ったことや悩んだことがあったらいつでも連絡してください。話を聞くことしかできませんが」
そう苦笑して彼は去っていった
あれから、私は彼と会っていない
最後に彼と会ったあの公園で気が付いてしまったから
彼からの好意を
私がもっと自分の気持ちに素直で、身の保身を考えてしまう女じゃなかったのなら
あるいは、彼のことを信じて彼の胸に飛び込んでいく勇気があったのなら
きっとこの物語の結末は変わっていたのだろう
私は本当にずるい女だ
彼の想いに応えられないのに、彼のあたたかい声を優しい言葉を望んでしまう
―幕―
2020.07.16 ボイコネにて投稿
2022.08.10 加筆修正・HP投稿
お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)
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