【詳細】
比率:男1
現代・ラブストーリー
時間:約5分
【あらすじ】
想いを受け取ってもらえないと分かりながらも求めてしまう。
一人の男性の物語。
*こちらは『やさしいあなたとズルい私』に出てくる男性視点のお話です
こちらだけでもお読みいただけます
【登場人物】
僕:想いを受け取ってもらえないと分かりながらも求めてしまう男性。
僕:
僕は臆病な男だ
あなたに想いを受けっとってもらえないことを知りながらも、もしかしたらと一縷の望みをあなたに託し、あなたに選択を迫ったのだから
初めてあなたと出会ったのは、繁華街の片隅でひっそりと営業しているバーだった
同僚に無理矢理、「もう一軒付き合え」と言われて連れてこられた店
正直乗り気じゃなかった
適当に飲んで、愚痴を聞いて帰ればいいと思っていた
渋々店に入ったとき、カウンターにあなたがいた
一人でグラスを傾けるあなたに一瞬で恋に落ちた
最初は誰かと待ち合わせなのかと思ったが、携帯を気にする素振りも店の入り口を気にする素振りもない
「おひとりですか?」
気が付くと僕は声をかけていた
驚いた表情で振り返るあなたは、先ほどまで一人でグラスを傾けていた大人の女性の顔ではなくて、純粋な少女の顔をしていた
その表情を見た瞬間、僕はあなたに落ちていた
二度目に会ったのもあのバーだった
店に入ると、あなたは前と同じように一人、カウンターで飲んでいた
薄暗い店内でもわかるほど綺麗なあなたは、今日も片手に強いお酒が入ったグラスを持っていた
以前声をかけたとき、はじめて会った見ず知らずの人間なのにも関わらず、あなたは僕に優しい微笑みを向けてくれた
凛とした綺麗な雰囲気から発せられるあなたの優しい声。柔らかな話し方
今日もそれが聞きたくて声をかけた
「今日もおひとりなんですか?」
僕が声をかけると、あなたはクスリと微笑んでそっと席を立った
そして、僕が次の言葉を発する前にあなたは僕の横をスッと通り過ぎていく
予想していない出来事に僕は思考が停止した
避けられた?
何か気に障ることをしてしまったのだろうか
事の真意を知りたくて急いで後を追おうとしたけれど、振り返ったそこにあなたはいなかった
三度目に出会ったのは夜の公園だった
会社の帰り、なんとなくいつもと同じ道を帰りたくなくて、ちょっと遠回りして家へと帰った
散歩にはちょうどいい気温
なんとなく寄り道をしたくていつもの公園の中を通った
昼間とはこんなに雰囲気が違うんだと辺りを見渡しながら歩いていると、ベンチで俯いてる女性がいた
特に酔っている風ではなく、でも、放っておくには気がかりすぎて、僕はそっと声をかけた
「どうかされたんですか?」
女性の肩がビクッと揺れる
こんな時間帯に見知らぬ男に声をかけられる
変な誤解を生むには十分すぎる現状
失敗したなと思い、怪しいものじゃないことを告げるために口を開こうとすると、
「いえ、大丈夫です」
聞き覚えのある声だった
いや、間違えるはずがない、あなたの声だった
俯いて頑なに顔を上げようとしないあなた
何か線を引かれた気がした
踏み込んではいけないと
それでも、あのバーで出会った時と違う、どこか弱弱しいあなたを一人にするなんて選択肢は僕にはなくて
「こんな時間に外に女性一人は危ないですから」
少しだけ距離を取ってあなたの隣に座る
またびくりと身体が微かに動いたけれど、あの時みたいに消えたりはしなかった
それが嬉しくて、この時間を手放したくなくて、僕は必死に言葉を重ねた
あなたの左指に輝く印に気が付きながらも
別れ際、今度あなたに会ったときに渡そうと思っていたメモを名刺ケースから取り出して渡す
「これ、よかったら僕の連絡先です。何か困ったことや悩んだことがあったらいつでも連絡してください。話を聞くことしかできませんが」
そう言って渡すのが精一杯だった
あの夜から、僕は彼女と会っていない
最後の公園で僕が賭けに出てしまったから
そして、あなたに選択を委ねてしまったから。
僕にもっと勇気があれば変わっていたのかもしれない
でも、僕にはあの左の薬指の印の意味を訪ねる勇気も、ましてやそれを壊す勇気もなかった
だから、彼女に「選んで」と委ねてしまったのだ
僕は本当に憶病な男だ
あなたに想いを伝える勇気もないのに、あなたのぬくもりに触れることを願ってしまうのだから
―幕―
2020.07.24 ボイコネにて投稿
2022.08.10 加筆修正・HP投稿
お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)
0コメント