【詳細】
比率:男1
現代・ラブストーリー
時間:約6分~8分
【あらすじ】
クリスマスの夜。もうすぐ日付が変わってしまう頃。
恋人と喧嘩してしまった国弘は一人街中を走っている。向かうのは彼女の家。
彼が急いでいる理由とは……
*こちらは、『寂しい聖夜』の対となる彼視点のシナリオです。
こちらだけでもお使いいただけます。
【登場人物】
国弘:(くにひろ)
20代。
クリスマス・イブに恋人と喧嘩をしてしまった。
●十二月二十五日・二十三時頃
仕事終わりに恋人のもとに走る国弘。
国弘:
お店の締め作業を急いで終わらせ、戸締りをしっかり確認して職場を後にする
本当はこんなはずじゃなかった
今日は十二月二十五日。世間じゃクリスマス当日
街はどこもかしもイルミネーションが輝いてお祝いムード一色だった
今日は人々が思い思いの時間を大切な人と過ごすそんな日
俺も世間に倣って今日という日は恋人と過ごすはずだった。昨日までは
クリスマス・イブの夜に俺は恋人と喧嘩した
理由はよくあること。急に俺に仕事が入ってしまったのだ
俺の職業はサービス業
だから、クリスマスなんて一大イベントの日の夜に休みがもらえるなんて、奇跡に近かった
「店長だってちょっとくらいクリスマスしましょうよ!」
その一言がきっかけだった。本当にいいバイトの子たちを持ったと改めて思ったよ
みんなの優しさがこもった休みというプレゼントに俺は浮かれていた
彼女とどんなクリスマスの夜を過ごして、何をプレゼントしようかと一週間以上前から考えた
必死に考えたのに、一本の連絡でそのプランが崩れた
バイトの子が急に熱を出してしまったのだ
「本当にごめんなさい」と電話口で謝るスタッフに「気にするな!」と明るく返す
君たちの思いが本当に嬉しかったのだから、と
だが、彼女にその事実をどう伝えていいのか俺は迷った
クリスマスの夜を一緒に過ごすことを楽しみにしてくれている彼女
その彼女に仕事が入ったと伝えるのは心が痛かった
だって、仕事が入ったら日付が変わるまで俺は彼女の元へと帰ってこられないことが分かっているから
それでも、伝えないわけにはいかなくて。せめて顔を見て彼女に直接伝えたくて、仕事帰りに彼女の家に寄った
明日の夜一緒に過ごせないことを彼女に伝えると、『私のことは気にしなくていいよ』と言ってくれた
無理矢理に作った笑顔で
彼女の気遣いだと分かってはいたが、そんな顔をさせてしまったことへの罪悪感がどうしても消えなくて、俺は何回も謝った
今思えば、俺は自分の罪悪感を消すことだけを考えていたんだ
彼女の優しさに甘えてしまっていた
何度目かの謝罪の時、彼女の雰囲気がスッと変わった
そして、『じゃあ、どうしろっていうのよ!』と怒りをぶつけられた
ハッとして彼女を見ると、彼女も同じような表情をしていた
俺はどうしていいのか分からなくて、
「ごめん」
それだけ伝えて部屋を出た
翌日。俺は朝から必死に仕事をこなした
彼女への罪悪感を払拭するためにではなく、仕事をいつもよりも早く終わらせて今日中に彼女の元へ行くために
一緒に仕事をしていたバイト君に「今日は何か鬼気迫ってますね」って若干引かれ気味に言われたのは秘密だ
そのおかげなのか、いつもよりも早く仕事を終えられ、俺は店を後にすることが出来た
今から彼女の家に向かえば余裕で今日中につくことが出来る
分かってはいるが、どうしても彼女の顔が早く見たくて足が勝手に走り出す
そして、手は勝手にスマホを取り出し、彼女へと電話をかける
『もしもし』
聞こえてきた彼女の声はとても小さくて、今すぐにでも抱きしめたくなった
『どうしたの?』という彼女の言葉を聞く前に言葉が出る
「今から行くから」
彼女が息をのむのが分かる
違うんだ、違う。俺は君を不安にさせたいわけじゃないんだ
「桃花に今日中に会いたいから、仕事死ぬ気で終わらせてきた」
また彼女が息をのんだ。でも、今度は不安のそれではないことは分かる
『待ってるから。ずっと待ってるから。だから、ゆっくり来て。ケガとかしてほしくないから』
彼女の声が震えている
あぁ、俺の恋人はこんなにも優しくて、愛おしい人なのだ
「わかった。ゆっくり行くから。待ってて」
彼女が頷くのが分かる。すぐにでも飛んで行って彼女を抱きしめたい
通話を切りたくはなかったが、話をしたままでは全速力は出せない
彼女はああ言ってくれたけど、ゆっくりなんて俺が無理だ
他愛ない言葉を交わし、
「桃花、愛してる」
そう言って通話を切った
さぁ、今日が終わるまであとちょっと
彼女にはまだ伝えてないが、明日は一日休みをもらっている
今日聞けなかった彼女のわがままをたくさん聞くんだ
一日ずれてしまったけど、俺たちのクリスマスはこれから始まる
―幕―
2020.12.25 ボイコネにて投稿
2022.10.11 加筆修正・HP投稿
お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)
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