大好きなものは……


【詳細】

比率:男2:女2

現代・ラブストーリー

時間:約15分~17分


【あらすじ】

講義終わり、いつも通り昼食を食べに食堂へと来た樹と風花。

食堂に入ったとたんに二人が巻き込まれたのは友人である湊と紬の口喧嘩だった。


【登場人物】

 樹:高坂 樹(こうさか いつき)

   大学二年生。

   風花の彼氏。

   事あるごとに湊と紬の喧嘩に巻き込まれており、大変な思いをしている。


風花:北原 風花(きたはら ふうか)

   大学二年生。

   樹の彼女。穏やかで優しい女性。

   喧嘩や面倒ごとに巻き込まれている樹をフォローしてくれている。


 湊:渡来 湊(わたらい みなと)

   大学二年生。

   紬の彼氏。

   紬のことが大好きで、常に紬のことを考えてこうどうしているが……


 紬:水瀬 紬(みなせ つむぎ)

   大学二年生。

   湊の彼女。湊のことが大好き。

   ちょっとだけ子どもっぽいところがある。

 



●大学の食堂

   食堂に入ってくる樹と風花。


 樹:それでさ……

風花:そうなんだ~。(少し遠くに湊と紬を見つけて)あれ?

 樹:ん? どうした、風花?

風花:(少し遠くの席を指さして)あれ。あそこで騒いでるのって、紬と湊君じゃない?

 樹:あ、本当だ

風花:何やってるんだろ?

 樹:……風花、今日の昼は食堂止めね?

風花:え? なんで? ここまで来たのに?

 樹:いや、ちょっと、あれには関わりたくない……

風花:え?

 紬:(風花を見つけ)あ、風花!

 湊:(樹を見つけ)樹!

 樹:……

風花:……気付かれちゃったね

 樹:(ため息)

風花:(苦笑しながら)これは……諦めましょ……

 樹:……

 紬:ちょっと、風花聞いてよ!

 湊:おい、紬! お前、先に北原を味方につけようとするなよ!

 紬:そう言う湊こそ、先に高坂君を味方につけようとしてたじゃない!

 樹:……

風花:樹?

 樹:……さい

 紬:(湊と同時に)え?

 湊:(紬と同時に)え?

 樹:うるさい!

風花:い、樹?

 樹:俺と風花は昼飯食べに来たんだ! お前らのくだらない痴話喧嘩を聞きに来たんじゃない!

 湊:ち、痴話喧嘩?

 紬:痴話喧嘩じゃない! 

 樹:お前らのは大体、いつも、大抵、九十パーセントが痴話喧嘩だろ!

風花:い、樹

 紬:今日は違うもん! 今日のこれは正真正銘、本当に真剣な喧嘩なの!

 湊:喧嘩じゃない

 紬:はぁ?

 湊:俺は悪くないのに紬が一方的に難癖付けてくるんだ!

 紬:はぁ? 違うもん! 今日のも絶対に湊が悪い!

 湊:はぁ? 俺は紬のことを思ってやったんだよ!

 紬:それが余計なお世話なの!

 湊:余計なお世話ってなんだよ!

 樹:うるさい!

 紬:……

 湊:……

風花:ま、まぁ、三人とも落ち着いて。このままじゃ他の人の迷惑になっちゃうし、とりあえず一旦落ち着いて座って話そうか

 樹:……

風花:樹、いいかな?

 樹:……ごめん。俺も熱くなりすぎた

風花:ううん。大丈夫だよ


   四人、元々、紬と湊が座っていた席に座る。


風花:それで? 一体何で揉めていたの?

 紬:聞いてよ! 湊がひどいことしてきたの!

 湊:おい! 人聞きが悪い! 俺は親切心で紬のためにしただけだ! 他意はない!

 紬:頼んでない!

 湊:なに!

 樹:……

風花:(樹の不機嫌を感じ取って)お、落ち着て! えっと、何があったか詳しく話してもらっていいかな?

 紬:わかった! それで二人に判断してもらおう!

風花:え? 判断?

 湊:いいぜ? 紬と俺、どっちが悪かったのか、二人に決めてもらおうぜ!

 紬:望むところよ! まぁ、絶対に湊が悪いって言われると思うけど?

 湊:はぁ? そんなわけないだろう? 二人はきっと俺の方が正しいって言ってくれる!

 紬:そんなわけないじゃん!

 湊:なんだと!

 樹:(不機嫌に)……で? 何があったんだ?

 紬:(樹の不機嫌オーラに圧されて)えっと……さっきまで、私と湊、ご飯食べてたの

 樹:ほう

 紬:それで、食べ終わって久々にケーキでも食べたいなって私が思って、「湊もケーキいる?」って聞いたの。そしたら……

 樹:あぁ、なるほど。太るからやめとけとでも言われたのか?

 紬:ちょっと何それ! そんなこと言われてない!

 湊:俺はそんなこと紬に対して一度も思ったことないし、言ったこともない! むしろ、紬は細すぎるからもっと食べてほしいって思ってる!

 樹:そ、そうか……

風花:つ、続けて

 紬:「いらない」って言われたの。だから、私、自分の分だけケーキ買って戻ってきたの

風花:うん……ここまでは普通だね

 樹:いたって普通の、いつもの光景だな

 紬:ひどいのはここからなの! 私がケーキ食べてたら、湊が私の取ったの!

 湊:だから、取ってないって言ってんじゃん!

 紬:取った!

 湊:取ってない!

風花:つ、紬、湊君に何を取られたの?

 紬:苺!

風花:え?

 樹:はい?

 紬:だから、ケーキの上に乗っかっていた苺を取られたの!

風花:えっと……紬の買ってきたケーキって……

 紬:苺のショートケーキ!

風花:なるほど

 紬:ね? これはもう完全に湊が悪いでしょ!

 湊:ちょっと待てよ! 俺の言い分も聞いてくれ!

風花:そうだね。湊君のも聞かないとフェアじゃないよね

 湊:あぁ!

 樹:じゃあ、さっさと話せ

 湊:樹、お前は俺の味方じゃないのか!

 樹:俺はどっちの味方でもない。とりあえず、話は聞いてやるから

 湊:ひどいぞ!

 樹:(不機嫌そうに)俺たちは、まだ、昼飯食ってないの! お前らと違って

 湊:うっ……

風花:そ、それで、湊君のお話も聞いていいかな?

 湊:(縋るように)北原~! 俺の味方はお前だけだよ!

 樹:あ?

 湊:さ、さっき紬が話してくれたのは途中まではあってるんだ

 紬:ちょっと、途中までって何よ!

風花:まぁまぁ、紬、落ち着いて。それで、湊君としてはどこからが違うのかな?

 湊:俺、紬がケーキ買ってきて、そう言えば飲み物なかったなって思って、紙カップの自販機に飲み物買いに行ったんだ。で、いつものカフェラテと俺の分のブラックコーヒー持って帰ってきて、紬に渡したんだ。そしたらさ……

 樹:ブラックとカフェラテを渡し間違えて喧嘩になった?

 湊:違う! 俺がそんなドジするはずないだろ!

 紬:そうだよ! 湊はいつもちゃんと間違えないようにって気を使ってくれてるもん!

 湊:当たり前だろ。紬がブラック苦手なの知ってるし、ブラック飲んでちょっと涙目になってる可愛い顔とか他の奴らに見せたくないし!

 樹:……

風花:い、樹。多分、ちゃんと全部聞かないと二人の話終わらないから、我慢して?

 樹:……いや、うん、話をさっさと終わらせたくていらんこと言った自覚はあるんだけどさ

風花:うん?

 樹:……何でこいつらちょいちょい惚気を無自覚で入れてくるんだ……

風花:(苦笑して)あははは……

 湊:それでさ!

風花:う、うん、それで?

 湊:席に帰ってきたら、紬がケーキ食べながら「すっぱ~い」って言ってたんだよ。で、どうしたのって聞いたら、「苺がすっぱくて」って言うからさ、代わりに食べたんだよ

風花:あぁ……

 樹:なるほどな

風花:えっと、湊君、一応念のために聞くけど、何を食べたの?

 湊:苺

 樹:ちなみにどこかに置いてあった?

 湊:皿の端に寄せてあった

風花:……これは……

 樹:……あぁ……

 紬:ほら、これは完全に湊が悪いでしょ!

 湊:なんでだよ! 俺は紬が苺がすっぱくて嫌で横にどけてたんだと思ったんだよ!

 紬:え? そうだったの?

 湊:そうだよ! 俺が意地悪でお前の苺取ったと思ったのかよ!

 紬:うん

 湊:そんなわけないだろ!

 紬:……でも、それでも、湊が悪い!

 湊:はぁ?

 紬:だって、聞いてくれればよかったじゃない! これ、いらないのって!

 湊:それは! 紬、いつも嫌いなもの皿の端に寄せてるじゃん。だから!

 紬:好きなものだって端っこに寄せて取ってあるじゃん!

 湊:区別なんてつかないよ!

 紬:だから、聞いてよ!

 樹:つまり話をまとめると、水瀬が最後に食べようと思って皿の端にとってあった苺を湊が取って食べたと

 紬:そう!

 樹:で、湊は湊でその苺が水瀬がすっぱくて嫌だから端に寄せてたと思った。だから、いつも通り食べてあげたと……

 湊:そうだよ!

 樹:(盛大なため息)

風花:い、樹?

 樹:くだらない

 紬:くだらない!

 湊:おい、樹、どういうことだよ!

 樹:だってそうだろ? 要は、お互いに勘違いしてただけって話だろ? なら……

風花:(遮って)でも、最後の楽しみの苺を食べられちゃったのは許せないな

 樹:え?

 湊:き、北原?

 紬:風花! わかってくれる?

風花:うん。最後の楽しみを奪われるのは辛いよね!

 紬:風花~! (風花に抱き着いて)風花ならわかってくれると信じてた!

 湊:え? え?

 樹:ふ、風花?

風花:これは湊君が悪い!

 紬:ほら!

 湊:……

 樹:……

 湊:い、いやいや、なんでだよ! 俺は紬のことを思って……

風花:(遮って)それでも、苺を食べた罪は大きいの!

 紬:そうだそうだ!

 湊:樹~

 樹:……あぁ。風花、湊も悪気があったわけじゃなないし……

風花:じゃあ、樹は湊君の味方なのね?

 樹:へ?

風花:樹は最後に残しておいた大事な大事な苺を取られても怒らないのね?

 樹:それは……

風花:怒らないのね?

 樹:相手によるけど、今回みたいな状況だったら怒らないかな

 湊:樹! お前はやっぱり俺の味方だ!

 樹:いや、俺は時と場合によるってだけで、お前の味方と言って……

風花:(遮って)樹、ひどい!

 樹:え?

風花:樹は私の苺も勝手に取っちゃうんだね!

 樹:え? いや……

風花:最後に食べようと思って大事に大事にとっておいた苺を取っちゃうんだね!

 樹:いや、だから……

風花:ひどい! 最低!

 樹:ちょっ、だから話を……

風花:樹なんて……

 紬:(風花の言葉を遮って)ダメだよ、風花!

風花:え?

 紬:好きな人に今だけの気持ちだけで嫌いって言っちゃダメ!

風花:……紬

 紬:高坂君はとっても素敵な人だよ。いつも風花のこと考えてくれてるでしょ?

風花:……うん

 紬:そんな素敵な人に嫌いなんて言っちゃダメ。風花の大切な大切な人でしょ?

風花:……うん。樹、ごめんね

 樹:いや、うん、大丈夫だよ

 紬:ふふふ、良かった

 湊:……紬

 紬:なに、湊?

 湊:俺、やっぱり紬が大好きだ!

 樹:え?

 紬:み、湊? 急にどうしたの?

 湊:いや、今の紬の言葉聞いてたら、俺、すっごい幸せ者だなって思って!

 紬:……そんなこと言ったら、私だって幸せ者だよ?

 湊:え?

 紬:だって、私のことをいつも大切に考えてくれる湊がいるんだもん

 湊:紬! 俺、勝手に苺食べちゃってごめんな。今度からちゃんと聞いてからにするよ

 紬:ううん。私の方こそ。私のことを思ってしてくれたのにごめんね

 湊:じゃあ、これで仲直りだな

 紬:うん!

 湊:よし! これからケーキ買いに行こうぜ!

 紬:え?

 湊:紬、この後講義ないだろ? 俺も今日終わりだし

 紬:でも、湊、サークルがあるんじゃ……

 湊:夕方にちょっと顔出せばいいだけだからさ! 紬さえよかったら、大学の近くのあの店、行こうぜ!

 紬:……湊。うん! 行こう!

 湊:じゃあ、二人とも、俺たち、これで行くからさ。席使っていいよ

 樹:あ、あぁ……

 紬:じゃあね、高坂君、風花!

風花:うん! またね!


   紬と湊、仲良く去る。


 樹:……なんだったんだ……

風花:う~ん、やっぱり痴話喧嘩?

 樹:(ため息)

風花:(優しく微笑んで)今日もお疲れ様

 樹:あぁ……にしても……

風花:ん?

 樹:本気で風花が水瀬の側に着いたのかと思って一瞬焦ったよ

風花:びっくりさせちゃってごめんね。でも、あれが一番この場を治められる方法かなって思って

 樹:お見事だよ

風花:樹も合わせてくれてありがとう。あ、ねぇ、樹?

 樹:ん?

風花:樹って好きなものは最初に食べる派? それとも最後まで取っとく派?

 樹:何だよ、急に……

風花:えっと、今後のために聞いておこうと思って。もしかしたら、今回みたいなことが私たちにもあるかもしれないし

 樹:いや、俺らはちゃんと聞いてから行動するだろうから、あの二人みたいなことにはならないと思うけど

風花:念のため!

 樹:う~ん、俺は最初に食べる派かな。一応

風花:一応?

 樹:そ、一応

風花:一応なの?

 樹:そう。だって、本当に大切なものは最後の最後まで大切すぎて手を出せないからさ。だから、一応



―幕―




2020.12.24 ボイコネにて投稿

2023.03.15 加筆修正・HP投稿

Special Thanks:こっこ様

紅く色づく季節

こちらは紅山楓のシナリオを投稿しております。 ご使用の際は、『シナリオの使用について』をお読みくださいませ。 どうぞ、よろしくお願いいたします!

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