黒電話の付喪神


【詳細】※性別変更可、人数変更可

比率:男1:女1(性別変更可)

現代・ファンタジー

時間:約20分



【あらすじ】

ある日、正広は祖父の遺品整理のために高森家の蔵に来ていた。

その蔵で出会ったのは、自分を付喪神だと言うジジ。

この出会いは、祖父から大切な孫への贈り物だった。


*こちらのシナリオは登場人物の性別の変更可能なシナリオでございます。

 性別変更をされる際は、一人称や語尾などの変更をお願いいたします。




【登場人物】

正広:(まさひろ)

   二十歳の大学生。

   おじいちゃん子で祖父の正嗣が大好きだった。

   現在はどうやら悩みを抱えているようで……

   *女性が演じられる場合は「正美(まさみ)」にお名前を変更してください


正嗣:(まさつぐ)

   正広の祖父。正広のことを大切に思っていた。

   *女性が演じられる場合は「正子(まさこ)」にお名前を変更してください


ジジ:黒電話の付喪神。姿形は子ども。




●過去


正嗣:ジジ、今日もありがとう

ジジ:お安い御用じゃ!

正嗣:ジジ、お前はいつまでも……

ジジ:(M)遠くで正嗣の、我が主の声がする

   あの声を最後に聞いたのはいつだったか……

   優しくて、穏やかで、我の大好きな声。正嗣、我も。正嗣はいつまでも我の……




●現代・高森家の蔵

    正広が一人で片付けをしている。


正広:よっと……(荷物を置き、ため息をついて)これ、あとどれくらいあるんだ?

   片付けても片付けても次から次へと……

   いや、そもそも、この量を一日で何とかしようっていうのが土台無理なんだよな

   これは、やっぱり泊りがけかな……

  (ため息をついて)バイトのシフト入れてなくてよかったよ……さてと……次は……


    カシャンと黒電話の受話器を置く音がする。


正広:ん? なんだ、この音? 何か落ちたのか?


    正広、奥の方へと行く。


正広:……確か、この辺りから聞こえたような……

  (棚にある黒電話を見つけ)ん? なんだ、これ? 黒電話?


    正広が黒電話に触れると、電話から勢いよくジジが飛び出してくる。


ジジ:正嗣!

正広:うわっ! (尻もちをついて)いたたたっ……

ジジ:あぁ、すまぬ、正嗣! 久しぶりに正嗣に会えて、勢い余ってしまった。でも、正嗣も悪んじゃぞ。大切だと言ってくれたのに我をずっとこんな所に置いておくのじゃから……

正広:え? こ、子ども?

ジジ:子どもではない! ジジだ! まさか……正嗣、我のこと忘れたのか?

正広:えっと……君、ここで何してるの?

ジジ:何って……それは我の台詞じゃ!

正広:え?

ジジ:こんな暗くて埃っぽい所にずっと置いておいて……我を忘れたフリまでして……正嗣、いくら温厚な我でも怒るぞ!

正広:えっと……君、本当にふざけてないの?

ジジ:じゃから!

正広:わぁ、ごめん。あぁ、もしかしてこの近所の子かな?

ジジ:近所の子?

正広:え? 違うの?

ジジ:違う! 我はジジだ!

正広:えっと……よくじいちゃんと遊んでたのかな? じいちゃん、近所の子どもたちからも昔から人気があったからな……

ジジ:さっきから、何を訳の分からないことを、我はこの電話の付喪神じゃ! そんなことも忘れたのか!

正広:付喪神? あぁ、そういう設定の遊びかな?

ジジ:正嗣!

正広:ごめんね、ジジちゃん。じいちゃん……君が言ってる正嗣さんはもうこの家にいないんだ

ジジ:え?

正広:数日前に、亡くなったんだよ

ジジ:……嘘だ……


ジジ:(M)これが我と正広の出会いじゃった



ジジ:(M)正嗣の家で出会った男(おのこ)、正広は正嗣の孫だと言う

   我が目を覚ました時には、もう正嗣はこの世にいなかった

   正嗣はあの家で唯一、付喪神である我が見える人間だった。ずっと一緒だと言っていたのに……

   正嗣は死んでしまった。人間は我らとは違う時間を生きる生き物だ。こんな日が来ることは覚悟していた

   でも、いざ現実となると辛いものだ

   俯く我を正広は正嗣の元へと連れて行ってくれ、最後の別れをさせてくれた

   随分と小さく形を変えてしまった正嗣だったが、纏う空気は変わっていなかった

   優しくて、暖かくて……目を閉じると正嗣の声が聞こえた

   「孫のことを頼む」と

   ……最後の最後まで、我のことをこき使いおって……




●数か月後・正広の住んでいるアパート・昼間


正広:ジジ、どこだ~?

ジジ:(急に姿を現し)まさ!

正広:うわっ!

ジジ:驚きすぎじゃ

正広:誰だって突然目の前に誰かが現れたら驚くだろう!

ジジ:そうか? 正嗣は驚かなかったぞ?

正広:……じいちゃん……流石だな……

ジジ:それで? まさ、何の用じゃ?

正広:ジジ、その、「まさ」ってあだ名で呼ぶのやめてくれ

ジジ:何故じゃ? 正嗣が小さい頃と同じ愛称じゃ。可愛いじゃろ?

正広:俺はじいちゃんじゃない

ジジ:そんなことはわかっておる

正広:それに、俺はもう今年で二十歳だ。子どもじゃない

ジジ:ふん、二十歳なぞ我から見ればまだまだ小童よ。大人ぶるでない

正広:ああ言えばこう言う……

ジジ:我は言葉遊びが得意なのじゃ! 言葉では誰も我には勝てないのじゃ!

正広:……黒電話、蔵に戻しに行くぞ?

ジジ:それは嫌じゃ! 暗くて狭くて、誰も来てくれないところはもう嫌じゃ!

正広:はいはい

ジジ:まさ! 我の扱いが雑じゃぞ!

正広:ジジもな

ジジ:(むくれて)ぶ~。あ、そうだ、まさ

正広:なんだ?

ジジ:さっき、机の上に乗っている、その……「すまほ」だったか? それが光ってたぞ?

正広:え?


    正広、スマホを急いで見る。


正広:……

ジジ:まさ? どうした?

正広:……いや、なんでもない……

ジジ:本当か? なんだか、顔色が悪いぞ?

正広:大丈夫だ!

ジジ:きゃっ!

正広:あっ……

ジジ:急に大きい声を出すな。びっくりしてしまうじゃろうが!

正広:……ごめん……俺、ちょっと出かけてくれる……

ジジ:え? あ、まさ!


    正広、部屋を出ていく。


ジジ:……行ってしまった……なんなんじゃ、まったく!


ジジ:(M)まさは本当に慌ただしいやつじゃ

   この部屋に来て数日、わかったことがある

   まさは、あの「すまほ」というものをいつも肌身離さず持っている

   あんなに大切にしてもらっているのだ。あの「すまほ」もきっといつか我のように付喪神になるじゃろう

   その時は、我がちゃんと先輩として指導してやらねばな!

   でも、何故なのじゃろう……

   まさが「すまほ」を見るときはいつも苦しそうな顔をしている。肌身離さず持っているのに、何故?




●翌日・正広の住んでいるアパート・昼

    正広はリビングの机で教科書を開いて課題をしている。


ジジ:なぁ、まさ?

正広:(顔を上げずに)ん~?

ジジ:お前はその「すまほ」が大切か?

正広:(顔を上げ)は? 急にどうした?

ジジ:大切か?

正広:……まぁ、大切だよ。これが無いと連絡をしたり、調べものしたり出来ないからな

ジジ:そう言うことではない!

正広:え?

ジジ:便利とか不便とかではなく、お前はその子が好きかと聞いておる!

正広:う~ん? 便利とかではなく?

ジジ:そうじゃ!

正広:う~ん……そうだな……ジジの言っている大切と同じかはわからないけど……大切だよ

ジジ:おぉ! それは何故じゃ!

正広:こいつにはいろんな写真が入ってるんだよ

ジジ:写真? 瞬間を切り取ったものだったか?

正広:そうだよ。じいちゃんの写真とか、家族の写真とか

ジジ:そうなのか! それは大事だな!

正広:あぁ

ジジ:では、まさは何故その子を見るときに辛そうな顔をする時が多いのじゃ?

正広:え……

ジジ:まさは時々、怯えた目でその子を見ておる

正広:……


    スマホが震える。


正広:あっ……

ジジ:ほらの

正広:何でもない! お、俺、ちょっと出かけてくる

ジジ:こら、まさ、話しは終わっておらぬ!


    正広、慌てて部屋を出ていく。


ジジ:何故じゃ?


ジジ:(M)大切だというのに怯える。何故なのじゃ……

   最期の正嗣の言葉、「孫のことを頼む」

   きっとあれは、このことを指しているのじゃろう

   まさは何かを抱えている

   我は、我が主の最後の願いを叶えたい

   じゃが、理由が分からねばそれも叶わぬ

   ……これは、あの子に直接聞くしかないかのう?




●同日・正広の住んでるアパート・夜

    暗い表情で家に帰ってくる正広。


正広:……

ジジ:まさ、おかえりなのじゃ!

正広:……

ジジ:遅かったのう

正広:……

ジジ:まさ?

正広:(壁を強く叩き)なんなんだよ!

ジジ:……

正広:くそっ!

ジジ:……まさ

正広:(ジジの声に気が付き)あっ……ジジ。いたのか?

ジジ:いたのかって、ずっといた。ずっと声を掛けてたぞ!

正広:……そうか、ごめん……

ジジ:いや、いいのじゃが……まさ? どうかしたの……

正広:(遮って)何でもない。今日はもう寝るわ

ジジ:まさ!


    正広を掴もうとするジジの手が透け、空を切る。


ジジ:……

 

    むなしく寝室のドアがパタリと閉まる。


ジジ:手が透けて……もうそろそろなのじゃな……


ジジ:(M)あの蔵で再び目を覚ました時から、気が付いていた

   我に残された時間が少ないことに……


ジジ:正嗣、お主の願いは必ず我が届ける




●数日後・正広の住んでいるアパート・朝


正広:(大きく欠伸をしながら)ん? 何だ、この匂い……

ジジ:おぉ、まさ! 起きてきたのか!

正広:(テーブルに置かれた料理を見て)ジジ! これっ!

ジジ:あぁ、作ってみたんじゃ。正嗣が好きだった食べ物じゃ

正広:……お前、こんなこと出来たのか

ジジ:もちろん、我一人の力ではない

正広:え?

ジジ:まさの「すまほ」に力を借りたんじゃ

正広:え……まさか……

ジジ:安心せい。触ってはおらぬし、中を見てもおらん

正広:(ホッとして)……そうか

ジジ:ただ、話をさせてもらった

正広:話し? 誰と?

ジジ:じゃから、まさの「すまほ」と

正広:は?

ジジ:その子もいずれ我のような付喪神になれる子じゃ。今はまだ姿を形作ることは難しいが、大事にしておればその子も姿を作れるようになるじゃろうて

正広:そ、そうなのか?

ジジ:あぁ、そうじゃ

正広:(スマホをまじまじと見つめ)へぇ……

ジジ:……その子が心配しておったぞ……

正広:心配?

ジジ:まさ、お主、いじめを受けておるの?

正広:っ!

ジジ:それも、直接的な暴力ではないな。これが文明の進化がもたらす弊害というやつか

正広:……なんでそれを……

ジジ:その子は何でも知っておるよ。あんな奴らの汚らしい言葉をお主に伝えなければならないのは嫌だと叫んでおった。じゃが、伝えることが自分の役割だから仕方ないと、申し訳なさそうに言うておったぞ

正広:……

ジジ:そして、お主が最近その子に頻繁に入力している言葉についても、止めてほしいと泣いておった

正広:……

ジジ:まさ、お主は今、自分は一人だと思っておらぬか?

正広:……え?

ジジ:親元を離れ一人で暮らして、人間の世界では大人と言われている二十歳になって、アルバイトをして稼いで。自分一人で生きているなんて思っておらぬか?

正広:……

ジジ:お主はまだまだ子どもじゃ。一人だけで生きていると思うなんて烏滸がましい

正広:っ!

ジジ:あぁ、勘違いするなよ? 我はまさに説教をしたいわけじゃないのじゃ

正広:……え……

ジジ:まさ、辛いと思ったら周りをよく見るんじゃ。お主は一人ではない。親がいる、ちゃんと話せる真の友もおるじゃろう。味方はお主が思っているよりもたくさんいるんじゃぞ?

正広:そんなはず……

ジジ:(大げさにため息をついて)だからお主は子どもだと言っておるのじゃ。一人で抱え込んで、内にこもるだけ。赤子ですら声を上げ、自己主張するというのに……自ら声を上げねば何も変わらんぞ?

正広:……だって……

ジジ:なんじゃ?

正広:……怖いんだよ……

ジジ:そうやってずっと内にこもっていたら、ずっとそのままじゃぞ?

正広:じゃあ、どうしろって言うんだよ!

ジジ:まさ……

正広:俺は一人じゃない、味方がなんて言われたって簡単に信じられるわけないだろう!

ジジ:まずは誰でもいい。この人ならばとお主が信じられる人に話してみたらどうじゃ?

正広:……それで裏切られたらどうするんだよ……

ジジ:……

正広:たとえ、話したとして、俺が一方的に信じていただけで、相手も同じだとは限らないだろう……

ジジ:……まさ……

正広:……怖いんだよ……

ジジ:(優しく苦笑して)仕方ないのう。最期に、赤子のようなお主に特別な贈り物をやろう

正広:最期? 最期って……


    正広、ずっと俯いていた顔を上げるとジジの身体が透けている。


正広:っ! ジジ! お前!

ジジ:あぁ……思っていたよりも早かったのう

正広:どうして、身体が透けてるんだ……

ジジ:うぬ……簡単に言うと、力が足りなくなったんじゃ

正広:え?

ジジ:付喪神というのはな、主に大切にされるから物に力が宿るんじゃ。我の主は正嗣だった。正嗣と最後の挨拶をしたときに気が付いた。我の力は段々衰えていくと

正広:そんな!

ジジ:あぁ、勘違いをするなよ。我の姿形がまさに見えなくなるだけで、我は変わらずここにいる。お主がこの黒電話を大切にしてくれている限りはな

正広:……ジジ……

ジジ:だから、こうやって言葉を交わすことが出来なくなる前にお主にとっておきの贈り物じゃ!


    黒電話が鳴る。


正広:え? 電話が鳴ってる? なんで? 配線だって繋がってないのに……

ジジ:さぁ、受話器を取るのじゃ

正広:……

ジジ:安心せい。その電話の向こうにはお主のことを一番心配して、一番愛してくれておった者がおる

正広:……

ジジ:大丈夫じゃ

正広:……わかった……

ジジ:正広

正広:え?

ジジ:今までありがとう。ほんの少しの時間じゃったが、お主と一緒にいられて楽しかった

正広:……ジジ……

ジジ:(嬉しそうに微笑んで)さぁ、受話器を取るのじゃ

正広:あぁ……


    正広、緊張しながらも受話器を取る。


正広:……もしもし? っ!

ジジ:(嬉しそうに微笑む)




●数年後・正広の住んでいるアパート・朝

    慌ただしく家を出る準備をする正広。


正広:やばっ! 遅刻しそうだ! じいちゃん、ジジ、行ってきます!

ジジ:いってらっしゃいなのじゃ!


ジジ:(M)あの日の電話から、まさは少しずつ変わっていった

   いろんなことに躓きながらも、自分の心を音に、声に出すようになった

   もう心配をする必要はないじゃろう

   それにしても、大好きな孫のために付喪神に無理をさせるとは……本当に正嗣らしいのう

   正広、今度からは、二人でここからお主を見守っておるからのう

   自分の心の声を大事に、己の良いと思った道を進むのじゃ



―幕―




2021.11.01 ボイコネ公式シナリオイベント投稿作品

2023.06.06 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

紅く色づく季節

こちらは紅山楓のシナリオを投稿しております。 ご使用の際は、『シナリオの使用について』をお読みくださいませ。 どうぞ、よろしくお願いいたします!

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