カゴノナカノキミ


【詳細】*こちらのシナリオには殺人のシーンがございます。ご注意ください

比率:男1:女2

近未来・SF

時間:約30分


【あらすじ】

街の外れにある少し古びた建物。そこがクラウスの研究所だった。

もともと研究熱心だった彼だが、ある日を境に家にも帰らず研究所に入り浸るようになった。

心配したベルタは何度もそこを訪ねるのだが……


*こちらのシナリオは少々暗いお話となっております。苦手な方はご注意ください。



【登場人物】

クラウス:ある日を境に研究所に入り浸るようになった青年。


 ベルタ:クラウスの幼馴染の女性。


 ノイン:クラウスが作った女性の生命体。



●クラウスの研究所・応接室

   ソファーに座るクラウス。その傍に立つノイン。


クラウス:ノイン、こちらへ

 ノイン:はい、マスター

 

  ノイン、クラウスの元へと近寄る。


クラウス:顔を良く見せて

 ノイン:はい、マスター

クラウス:うん、今日も顔色がいい。体調は? 身体に違和感はあるかい?

 ノイン:いいえ、ありません

クラウス:そうか。それは良かった


   ドアが勢いよく開く。


 ベルタ:クラウス! やっぱりここに居た!

クラウス:ベルタ、いつも言ってるだろう。ドアは優しく丁寧に……

 ベルタ:いい加減にしなさいよ!

クラウス:……ベルタ……

 ベルタ:これでいったい何日目? あんたが家に帰ってこないっておばさんが心配してたわよ!

クラウス:母さんか。別に心配する事でもないだろう。僕は仕事をしているだけだ

 ベルタ:仕事? どこが? そのお人形さんと遊ぶことが仕事だとでも言うの?

クラウス:ベルタ

 ベルタ:な、何よ?

クラウス:ノインのことを人形だなんて言わないでくれ。彼女は僕の最高傑作なんだ

 ベルタ:っ!

クラウス:やっとここまで人間に近い存在を、ヒューマノイドを作ることが出来たんだ。彼女は人形なんかじゃない

 ノイン:マスター

クラウス:あぁ、ノイン。そんな顔をしないで。君は僕にとって何よりも大切な存在だよ

 ベルタ:やめてよ!

クラウス:……ベルタ

 ベルタ:前までのあんたはこんなんじゃなかった。もっと普通だった

クラウス:普通……

 ベルタ:そうよ。こうやって変に研究にのめり込むこともなかったし、おばさんのことも大事にしてた。今と違って仲間と話したり、食事をしたり交友関係も広かった。こんな場所に一日中こもったりなんかしなかった!

クラウス:……

 ベルタ:そう、ちょうど一年前のこれくらいの時期。この人形を作り始めてからじゃない。あんたがおかしくなったのは!

クラウス:……

 ノイン:マスター

クラウス:ノイン……

 ノイン:ベルタ様

 ベルタ:なによ!

 ノイン:これ以上私のマスターを傷つけるのはやめてください

 ベルタ:は?

 ノイン:これ以上は私が許しません

 ベルタ:……なによ……作られたヒトガタのくせに……

 ノイン:マスターは私の大切な人です

クラウス:ノイン……

 ノイン:マスター

 ベルタ:っ! じゃあ、一生そうしてれば!


   ベルタ、勢いよくドアを閉め帰ってく。


クラウス:ベルタ……

 ノイン:マスター、申し訳ございません

クラウス:どうしてノインが謝るんだい?

 ノイン:ベルタ様が怒って出ていかれてしまいました。これはおそらく私のせいですよね?

クラウス:そんなことない

 ノイン:ならばなぜベルタ様は帰られたのでしょうか。ベルタ様の目的はマスターをご自宅へと連れ帰ること。その目的が達成されていないのに

クラウス:きっと僕の研究のことを認めてくれたんだよ

 ノイン:そうでしょうか?

クラウス:そんなことよりも、ノイン、近くにおいで

 ノイン:はい、マスター

 

   クラウス、ノインを抱きしめ頭を撫でる。


クラウス:ノイン、君はいい子だ

 ノイン:マスター?

クラウス:今、君は君の意思で発言し、行動しているんだね?

 ノイン:はい、マスター

クラウス:あぁ、やっぱり君は僕の最高傑作だよ。これで、僕の夢がまた一歩現実に近づいた

 ノイン:……

クラウス:これで『本当のベルタ』にしてあげられる

 ノイン:……マスター

クラウス:なんだい? ノイン

 ノイン:……いえ、なんでもありません。私もマスターのお役に立てること嬉しく思います

クラウス:ノイン! 本当に君はいい子だ。僕の大切な子だよ

 ノイン:……




●クラウスの研究所・数日後

   応接室を掃除するノイン。クラウスは奥の仮眠室で寝ている。


 ノイン:床の掃除、問題なし。椅子の位置、問題なし。窓の曇り、なし


   勢いよく開くドア。


 ベルタ:クラウス!

 ノイン:ベルタ様、いらっしゃいませ

 ベルタ:……あんた……

 ノイン:ノインでございます

 ベルタ:……クラウスはどこ?

 ノイン:マスターは奥の仮眠室で睡眠をとられています

 ベルタ:よかった。ちゃんと寝てはいるのね

 ノイン:人間には必要なことですから、当然です

 ベルタ:その当然を奪ってる人形がよく言うわ

 ノイン:奪う?

 ベルタ:そうでしょ? クラウスが家にも帰らずにこの研究所に入り浸って生活をしている。それはあんたのせいでしょ?

 ノイン:私のせいではありません。マスターはマスターのご意志でここにいらっしゃいます

 ベルタ:だからっ! ……いい。あんたみたいな人形に怒鳴ったところで仕方ないわよね

 ノイン:私は人形ではありません。ノインです

 ベルタ:あんたはクラウスが作った人形でしょう!

 ノイン:違います

 ベルタ:何が違うのよ!

 ノイン:私はこれまでのマスターのヒューマノイドとは違います

 ベルタ:同じよ!

 ノイン:貴女とは違います

 ベルタ:当たり前でしょ! あんたみたいな人形と一緒にしないでよ!

 ノイン:……哀れですね

 ベルタ:はぁ!

 ノイン:知らないと言うのは罪だと書物に書いてありましたが……本当のことなのですね

 ベルタ:あんたねぇっ!

 ノイン:(遮って)一年前

 ベルタ:……え?

 ノイン:一年前、マスターに何があったのですか?

 ベルタ:何が?

 ノイン:貴女は一年前からマスターが変わったと言っていました。その一年前、その日、マスターに何があったのですか?

 ベルタ:一年前……

 ノイン:思い出せませんか?

 ベルタ:馬鹿にしないで!

 ノイン:では、何があったのですか?

 ベルタ:っ! あんたには関係ないでしょ!


   ベルタ、踵を返す。


 ノイン:ベルタ様、どちらへ?

 ベルタ:あんたには関係ない! 人形は人形らしく黙ってなさいよ!


   ベルタ、力任せにドアを閉め帰る。


ノイン:……本当に知らないとは罪ですね。私はあんな人のために……


   仮眠室のドアが開き、クラウスが出て来る。


クラウス:……今のドアの音……ベルタ……?

 ノイン:マスター

クラウス:ノイン、ベルタが来たの?

 ノイン:……はい……

クラウス:そうか……起こしてくれたらよかったのに……

 ノイン:マスターを起こすのはベルタ様の本意ではなかったようでしたので

クラウス:(嬉しそうに微笑んで)やっぱり、ベルタは優しい子だな

 ノイン:……

クラウス:やっぱり、僕には彼女がいなくちゃダメなんだ

 ノイン:……はい

クラウス:ノイン

 ノイン:はい、マスター

クラウス:僕が寝そうになったら起こしてくれ。早く彼女のために完成させなくては

 ノイン:承知いたしました、マスター

クラウス:じゃあ、僕はさっそく研究に戻る。何かあったら教えてくれ

 ノイン:はい


   クラウス、応接室を出ていく。


ノイン:……ただのヒューマノイドのくせに……




●クラウスの研究所・研究室・夜

   デスクに向かうクラウス。

   デスクの近くには人間が入れるくらいの大きな試験管のようなものがいくつもある。中は見えない。

   ドアがノックされ、返事を待たずにノインが入って来る。


 ノイン:マスター

クラウス:(データから顔を上げ)ノイン、どうしたんだい?

 ノイン:そろそろ休まれてはいかがですか?

クラウス:ノイン、昼間も言っただろう。僕はベルタのために一刻も早く研究を完成させたいんだ

 ノイン:……そんなにベルタ様が大切ですか?

クラウス:もちろんだ

 ノイン:私よりも?

クラウス:ノイン?


   ノイン、クラウスの近くにより服を脱ぐ。


クラウス:ノイン! 何をしているんだ!

 ノイン:マスター、私をよく見てください

クラウス:っ! 服を着なさい……

 ノイン:マスター

クラウス:ノイン!

 ノイン:クラウス

クラウス:っ! ノ……イン……?

 ノイン:私を見て。貴方が作ってくれた身体。貴方が求めている女の身体

クラウス:……

 ノイン:ほら、こんなにも近くにある。あんなまがい物よりも本物に近いものがここにある。私の方が……

クラウス:(遮って)ノイン……身の程をわきまえろ

 ノイン:っ!

クラウス:君は僕の最高傑作だ。己の意思を持つ子なんて初めて出来たからね

     でも、だからと言って彼女を貶めていい理由にはならない

     君は彼女を完璧なものにするための通過点でしかないんだよ

 ノイン:……クラウス……

クラウス:僕の名前を呼ぶことを許可した覚えはない

     嫉妬は実に人間らしい感情だが、度を越せば身を亡ぼすことを覚えておけ。二度はない

 ノイン:……はい、マスター……

クラウス:よろしい。素直な子は好きだよ

 ノイン:マスター、どちらへ?

クラウス:少し外の空気を吸いにね


   クラウス、研究室から出ていく。静かに閉まるドア。


 ノイン:……私は、あんな女のための通過点……あんな女の……

     そうか、あの女がいなくなれば、マスターは私を見てくれる

     オリジナルじゃなくても、あの女が消えればあの女のデータは私の中にしかなくなる……

    愚か者には死を。我が主に救いと安寧を




●数日後・クラウスの研究所・玄関・昼

   ベルタがいつものように門を開け入って来る。


 ベルタ:今日こそはクラウスを連れて帰るんだから……

 ノイン:ベルタ様

 ベルタ:っ! あんた、脅かさないでしょ!

 ノイン:失礼いたしました

 ベルタ:……クラウスはどこ?

 ノイン:マスターはまだお休み中です

 ベルタ:はぁ? もう昼なのに?

 ノイン:昨夜も遅くまで研究室に籠っておられましたから

 ベルタ:本当にもう……夢中になるとすぐに時間忘れちゃうんだから。あいつの方から呼び出したくせに……

 ノイン:(遮って)ベルタ様

 ベルタ:なによ?

 ノイン:少しお庭のお散歩などいかがですか?

 ベルタ:はぁ? なんで私がお人形なんかと……

 ノイン:マスターがベルタ様のためにお作りになられたお庭なんです

 ベルタ:……クラウスが?

 ノイン:はい

 ベルタ:……少しだけなら。クラウスが起きてくるまでだからね!

 ノイン:もちろんです。では、こちらへ


   間


 ベルタ:ここは……

 ノイン:見覚えはありませんか?

 ベルタ:見覚え?

 ノイン:白いバラ、ベンチ、小さな東屋。午後

 ベルタ:なに? なんなの?

 ノイン:思い出して

 ベルタ:なにを……

 ノイン;思い出せ!

 ベルタ:っ!

 ノイン:一年前のあの日。ここに似た景色のある場所で貴女に何があった?

 ベルタ:私に? 何が……痛っ! 頭が……割れそう……

 ノイン:ねぇ、ベルタ。知りたくない?

 ベルタ:……っ……何を……?

 ノイン:貴女があれほど変わったと言っている私のクラウスがあの研究室で何を研究しているのか

 ベルタ:……え……

 ノイン:知りたくない?

 ベルタ:……でも……あの部屋には……っ……入るなって……

 ノイン:知りたくないの?

 ベルタ:……

 ノイン:ほら、素直になればいい。それとも、私とクラウスだけの秘密にしちゃっていいの? 二人だけの、他の誰も知らない秘密に……

 ベルタ:いや!

 ノイン:なら決まりです。貴方をあの研究室にお招きします。私たちの秘密を貴女に……




●クラウスの研究所・研究室

   薄暗い研究室。ゆっくりとドアが開く。


 ノイン:どうぞ、お入りください

 ベルタ:ここは?

 ノイン:クラウスの研究室です

 ベルタ:ここが研究室……暗くて何があるのかわからないわ

 ノイン:すぐにわかるようになります。それよりベルタ様、頭痛は収まりました?

 ベルタ:……少しね。あれは何だったのかしら……

 ノイン:それは拒絶反応です

 ベルタ:拒絶反応?

 ノイン:クラウスが貴女にかけた記憶再生防止機能。何かの拍子にあの一年前のことを思いだされては困りますからね

 ベルタ:さっきからなんなの。一年前一年前って……

 ノイン:一年前のある日、ある公園で貴女は大事故にあった

 ベルタ:大事故? なんのこと?

 ノイン:本当に覚えていませんか? 公園、ベンチ、白いバラ、小さな東屋、昼下がり、大きな馬車

 ベルタ:馬車……うっ……

 ノイン:凄惨な事故でした。暴走した馬車が昼下がりの公園へとなだれ込み……いろんな人が死にました

 ベルタ:……やめ……て……

 ノイン:公園で遊んでいた小さい子どもも、のんびりと過ごしていたご老人も

 ベルタ:やめてって……言ってるでしょ……っ!

 ノイン:ベンチでデートをしていた男女の片方も

 ベルタ:やめて!

 ノイン:……

 ベルタ:(荒く呼吸をする)

 ノイン:貴女は本来ならばあの時あの場所で消えるはずだったんです

 ベルタ:……あんたは何が気にくわないの?

 ノイン:……

 ベルタ:私が邪魔だから腹いせに私にこんなことするんでしょ? 作られた人形のくせに、いっちょ前に嫉妬でもしてるの? 人間の真似事?

 ノイン:……私は人形ではありません

 ベルタ:は? あんたは人形でしょ? それ以外の何者でもないじゃない!

 ノイン:では、貴女は何者なのですか?

 ベルタ:え?

 ノイン:ほら、思い出してください。あの時、あの場所で、貴女はどうなりましたか?

 ベルタ:私は! っ!

 ノイン:(ため息をついて)本当にクラウスの技術は凄い。でも、これじゃ話が進まない。いいわ、私が教えてあげる

 ベルタ:は?

 ノイン:あの日、貴女は馬に蹴られて死んだの

 ベルタ:……え?

 ノイン:覚えてない? 身体への衝撃、見ていた景色

 ベルタ:……そんなの覚えてない

 ノイン:(ため息をつく)

 ベルタ:っていうか、私が死んだとか……嘘をつくならもっとましな嘘をつきなさいよ

 ノイン:嘘……

 ベルタ:だってそうでしょ? じゃあ、今ここに居る私は何? 

     幽霊だとでも言いたいの? 皆から姿が見える幽霊。物にも触れられる幽霊

     そんなのが存在するとでも? そもそも、幽霊って存在自体が……

 ノイン:(遮って)亡霊です

 ベルタ:は?

 ノイン:強いていうならば、貴女は亡霊。でも、それも違う

 ベルタ:いったいなんなの!

 ノイン:貴女は人形。私にすら勝てない出来損ないのヒューマノイド 

 ベルタ:……は?


   研究室のドアが勢いよく開く。


クラウス:ノイン! ベルタ!

 ベルタ:クラウス! あんた、手から血が!

クラウス:……心配するな……

 ノイン:……花瓶の破片で手を切って己を傷つけてまで抗うのですね……

クラウス:あぁ、当たり前だ!

 ノイン:……そんなにこの人が大切ですか……

クラウス:当然だ! ベルタは僕の大切な人だ!

 ベルタ:……クラウス……

 ノイン:っ! ……ならば、その大切な人に隠し事をするのはいけないことですよね? マスター?


  ノイン、研究室の電気のスイッチを付ける。


クラウス:ノイン! やめろ!

 ベルタ:ま、眩しい……急に、明るく……なに……これ……

クラウス:ベルタ! 見るな!

 ベルタ:大きい試験管に……人が……浮いてる?

 ノイン:ホムンクルス

 ベルタ:ホムン……クルス……?

 ノイン:人が造った生命体です。ヒューマノイドなんかよりもはるかに人間に近しい存在

 ベルタ:それが、なんでこんなに……

 ノイン:そこに並んでいる十個の試験管の一つ、空いているのがわかりますか?

クラウス:ノイン!

 ノイン:ホムンクルスは本来、特殊な培養液の中でしか生きることができない

     どんなにヒューマノイドよりも人間に近い存在を作れたところで、その培養液から外に出られる個体を作り出すのは難しい

 ベルタ:それがなに?

 ノイン:私の名前はノイン。私はその例外にして最高傑作

 ベルタ:は?

 ノイン:ねぇ、ベルタ。その子たちの顔に見覚えはない?

 ベルタ:見覚え?

 ノイン:近くでよく見て

 ベルタ:……気持ち悪い……なんなのよ……

クラウス:ベルタ! やめろ!


   ベルタ、試験管の一つに近づく。


 ベルタ:これがどうしたってい……う……の……

 ノイン:見覚えありませんか?

クラウス:見るな!

 ベルタ:……これ、私……?

 ノイン:そう、よく似ているでしょう? それらは全部貴女を基に作られた子たち

 ベルタ:なにこれ!

 ノイン:クラウスが貴女のために作った新しい身体よっ!

 

  ノイン、背後からベルタに近づきナイフでベルタの腕を切る。


 ベルタ:きゃあぁぁぁぁ!

クラウス:べルタ!

 ベルタ:痛い……痛いっ!

 ノイン:痛覚まで装備してあったんですね、クラウス

クラウス:ノイン!

 ノイン:ナイフで切られたところは痛いですか?

 ベルタ:痛いっ!

 ノイン:本当に?

 ベルタ:ひっ! ち、近づくな!

 ノイン:ねぇ、よく見て? 貴女の傷からは血なんて零れていない。痛いなんて感覚はプログラムに過ぎない

 ベルタ:え……血が……ない……

クラウス:ベルタ!

 ベルタ:なんで? どうして? 私、今さっき切りつけられて……私、こんなに痛いのに……なんで……

 ノイン:よく見て? 傷の先に何が見える?

 ベルタ:傷の先?

 ノイン:そう、その奥

 ベルタ:……ひかる……もの……

クラウス:やめろ!

 ベルタ:……金属……あ……あぁ……あぁぁぁぁぁ!

クラウス:ベルタ!

 ノイン:ほら、言った通りでしょ? 貴女はヒューマノイド。ただの人形

 ベルタ:私は……人形……

クラウス:ベルタ、違うんだ!

 ノイン:何が違うのクラウス?

クラウス:黙れノイン!

 ノイン:ねぇ、ベルタ。今の気分はいかが? 自分があれだけ嫌っていた人形と同じ人形になったお気持ちは

 ベルタ:私……私……

 ノイン:あの日、貴女の身体は死んだ

     クラウスは貴女の脳だけをヒューマノイドに移植した

     いつか完璧な貴女の肉体を手に入れて、そこに戻すために……

 ベルタ:あぁ……あ……あぁ……

 ノイン:もう自我を失ったの? 本当に脆いものね

クラウス:……ノイン……

 ノイン:クラウス。これで邪魔者はいなくなった

     私はベルタ。ベルタは私。彼女の物から出来た私はベルタそのものでしょ?

クラウス:……ベルタ……

 ノイン:だか……ら……え? 生暖かい……これは……血?

クラウス:……

 ノイン:血? なんで? クラウス! なんで私を!

クラウス:前に言ったはずだ。僕の名前を呼ぶことを許可した覚えはないって

 ノイン:あっ……

クラウス:失敗作は処分しないとね

 ノイン:……あ、あ……マスター、ごめんなさい……

クラウス:君は一番触れてはいけないものに触れたんだ……

 ノイン:あぁ……

クラウス:さようなら、ノイン。九番目の試作品


   クラウス、ノインにナイフを突き立てる。


クラウス:出来損ないが。(振り返り)ベルタ!


   クラウス、ベルタの元に駆け寄り彼女の身体を抱きしめる。


 ベルタ:……あ……あぁ……

クラウス:ベルタ、大丈夫だよ。ゆっくり、呼吸をして

 ベルタ:わた……し……わた……

クラウス:あぁ、可哀想なベルタ。大丈夫だよ、僕が助けてあげる

 ベルタ:……わたしは……

クラウス:少しだけ眠ってて。またすぐに起こしてあげるから

 ベルタ:(機械的に)維持システム、変更します。休眠モード

クラウス:眠ったね。あぁ、こんなに泣いて……でも、赤くなったりしなくてよかった

     可愛い寝顔だ。ねぇ、ベルタ。もう少し待ってて

     僕が君の身体を、人生を取り戻すから。そうしたら、今度こそ君に伝えるね

     ずっと傍に居てほしいって

    (嬉しそうに微笑んで)そうだ、ベルタの身体が完成したら僕の身体も作って永遠に二人で生き続けるって言うのもいいね

     幸せだろうなぁ。ねぇ、僕のベルタ



―幕―




2024.01.03 HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

紅く色づく季節

こちらは紅山楓のシナリオを投稿しております。 ご使用の際は、『シナリオの使用について』をお読みくださいませ。 どうぞ、よろしくお願いいたします!

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