我慢しないで聞かせてほしい


【詳細】

比率:男1・女1

現代・ラブストーリー

時間:約10分


【あらすじ】

夜。

在宅の仕事を終え、大好きな奥さんと食べる夕飯を作っていると少し乱暴に玄関のドアが開く音がした。

びっくりしながらも玄関に行くと、いつもとはちょっと違った雰囲気の彼女がいて……



【登場人物】

新:(あらた)

   20代。在宅で仕事をしてる千尋の夫。

   温厚で普段は滅多に怒らないが、千尋のこととなると話は別。


千尋:(ちひろ)

   20代。新の奥さん。

   とても真面目。故にいろいろと溜め込みがち。



●自宅・夜

   キッチンでは、新が夕飯を作っている。

   玄関のドアが乱暴に開く。


 新:(キッチンから顔を出して)あ、千尋ちゃん、おかえりな……

千尋:(遮って)解せぬ!

 新:……

千尋:…

 新:(微笑んで)おかえりなさい、千尋ちゃん

千尋:……ただいま……

 新:ご飯もうちょっとで出来上がるから、先にお風呂入って来なよ

千尋:……ヤダ……

 新:なんで?

千尋:……何もしたくないから

 新:そっか。でも、寒い所から帰ってきたんだから、身体は温めないと

千尋:……

 新:湯船につからなくてもいから、ね?

千尋:……

 新:じゃあ、ちゃんとお風呂入ってきたら、髪の毛乾かしてあげる

千尋:……

 新:何もしたくないんでしょ?

千尋:……うん

 新:じゃあ、ドライヤーは僕がしてあげる。だから、お風呂に入っておいで

千尋:……わかった。新

 新:ん?

千尋:……ありがとう

 新:ん。いってらっしゃい


   千尋、バスルームに向かう。


 新:(ため息)こりゃ、久々に重症かな? さぁ、さっさとご飯作って思いっきり甘やかすとしますか!




●自宅・夜・数十分後

   千尋、リビングに入って来る。


 新:あ、千尋ちゃん、おかえり。ちゃんと温まってきた?

千尋:……うん

 新:じゃあ、こっち座って。髪の毛乾かしてあげる

千尋:……ん(新の近くに座る)

 新:はい。じゃあ、タオル貸して

千尋:……新……

 新:なに?

千尋:……ごめんね

 新:なにが?

千尋:……帰ってきて早々に愚痴ってわがまま言った

 新:あぁ。そんなの気にしてないよ

千尋:……

 新:そりゃ、大好きな奥さんには笑顔で帰ってきてほしいなって思うけど。無理して笑ってほしくはなし、嫌だって思ったらため込まずに言ってほしいって思ってる。だから、千尋ちゃんは謝らないで

千尋:……新……

 新:何か嫌なことあったんでしょ?

千尋:……でも、私の力不足だから……

 新:本当に?

千尋:……うん

 新:(ため息)もう、今日はやっぱり徹底的に甘やかす!

千尋:え?

 新:他人を責める前に自分に落ち度かなかったかって考えて、いろいろ何とかしようとするのは千尋ちゃんのいいところだし、僕の好きなところでもあるけど、そうやって自分の中にため込みすぎるのはダメだよ

千尋:だって……

 新:だってじゃないの

千尋:……

 新:仮に千尋ちゃんの力不足で何かあったとしても、千尋ちゃんにとっては嫌なことがあったんでしょ

千尋:……うん

 新:だったら、嫌なことは嫌って言っていいの。ここは職場じゃなくて家なんだから。家でまで我慢する必要ないでしょ?

千尋:……

 新:(優しく微笑んで)何があったの?

千尋:……新人ちゃんが……

 新:うん

千尋:いろいろあってミスをしちゃって、それで注意したら泣いちゃって。で、上司に新人を泣かすなんて何事だって言われちゃって。この子が出来ないのは全部お前のせいだろって。自分の指導力不足のクセに可愛い新人を泣かすんじゃねぇって……

 新:そっか

千尋:確かに、私の力不足だし教え方も悪かったのかもしれないけど……

 新:うん

千尋:その後の二人の態度にイラっとしちゃって……新人ちゃんは、「私悪くないです」って態度だし、上司も鼻の下伸ばしながら、「また何か言われた相談しなさい」って……

 新:……それは……

千尋:……全部私が悪いのかって思ったら……

 新:それは、イラッとして当たり前。ねぇ、その新人ちゃんて千尋ちゃんの直接の部下?

千尋:ううん。同期が教えてる子。今日、急に休みになっちゃって私が教えてたの

 新:なのに、千尋ちゃんが怒られたの?

千尋:う、うん

 新:ありえない!

千尋:あ、新?

 新:千尋ちゃん、それってパワハラだよ! その新人ちゃんも自分のこと可愛いって思ってて上司に媚び売ってるでしょ、明らかに!

千尋:あ、やっぱり……

 新:僕は見たわけじゃないけど、明らかにそうだって確信してる。下手したら、その上司と付き合ってたりするんじゃない。その上司って独り身? 大丈夫なの?

千尋:あ、新、落ちついて……

 新:僕の真面目でちゃんと仕事が出来る可愛い奥さんにいちゃもんつけてきただけでも腹立つのに何それ!

千尋:えっと……

 新:千尋ちゃん!

千尋:は、はい!

 新:明日からボイスレコーダー持とう。パワハラの証拠を集めよう!

千尋:ちょっ、目がマジだよ?

 新:マジだもん! あ、良かったら僕が仕事用に使ってる高性能のやつ持ってく?

千尋:あ、新!

 新:なに?

千尋:ありがとう

 新:え?

千尋:こんなに真剣に怒ってくれて

 新:そんなの当たり前だよ!

千尋:新にとっては当たり前かもしれなけど、凄く嬉しかった

 新:……

千尋:新?

 新:……やっぱり、千尋ちゃん、お仕事辞めない?

千尋:え?

 新:だって、千尋ちゃんがこんな思いばっかりするなんて

千尋:(微笑んで)新、ありがとう。でも、私はもうちょっとお仕事していたいな

 新:……千尋ちゃん

千尋:嫌なこともいっぱいあるけど、それ以上に楽しいんだ。だから、出来る限りは続けていたいの

 新:……わかった

千尋:ごめんね。わがままで

 新:ううん。僕も自分の仕事が好きだし、千尋ちゃんの気持ちわかるから

千尋:ありがとう。これからも、愚痴っちゃうこといっぱいあると思うけど、よろしくお願いします

 新:(微笑んで)うん。お願いされます


   二人、笑い合う。


 新:あ!

千尋:ん?

 新:でも、僕としては早く三人で暮らしたいなって思ってるからね

千尋:え? (新の言わんとすることを理解して)ちょ、新!

 新:(微笑む)



―幕―



2021.03.18 ボイコネにて投稿

2022.10.04 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

紅く色づく季節

こちらは紅山楓のシナリオを投稿しております。 ご使用の際は、『シナリオの使用について』をお読みくださいませ。 どうぞ、よろしくお願いいたします!

0コメント

  • 1000 / 1000