あまのなみだ


【詳細】

比率:男2:女2

和風・ファンタジー

時間:約45分~50分


【あらすじ】

時は平安。

ある男の命により、忠雅と泰親は天女を捜しに山へと登る。

天女などいるはずもないと思っていた忠雅だったが、山中で美しい少女・雫と出会う。

その夜、忠雅の元へ妖が訪れる。

妖が求めるものとは……


*このシナリオでは、『天降天女(あもろうなぐ)』という存在が登場しますが、本来の伝承とは異なる箇所がございます。ご注意ください。



【登場人物】

忠雅:(ただまさ)

    都に住む武官。武術に秀でている。

    顔も性格も良いのだが、少々不愛想なところがあるため近寄りがたい雰囲気を醸し出してる。

    女性からの好意には全くと言っていいほど気が付かない。


泰親:(やすちか)

   都に住む陰陽師。

   持っている力はとてつもなく強いのだが、貴族が嫌いなため媚びを売ることはない。

   女性のことが大好きで、美しい女性を見ると口説きたくなる性分。

   いつも笑顔だが、その実何を考えているのかはわからない。


雫/しぶき:(しずく/しぶき)

      忠雅が山中で出会った少女。一部の記憶を無くしている。

      侍女のめいと共に行方不明の兄を捜している。

      真名はしぶき。真の姿は天降天女(あもろうなぐ)。

      

めい/睡蓮:(めい/すいれん)

      雫の侍女。彼女が幼い頃から仕えている。

      真名は睡蓮。真の姿はしぶきの眷属。


   


●過去・山中・雨の中

   しぶきの前に血を流し横たわる白い鳥。


しぶき:ハク! 何故だ! 何故そなたが討たれねばならん!

    ……人の子よ……己の欲望を押さえられぬ愚かな獣よ……己が所業を悔いよ……

    私は何があろうとそなたら人の子を許さぬ

    例え、天から弾き飛ばされようとも、この身が八つ裂きにされようとも、そなたらを許しはしない!



●現在・山の中・昼間

   山道を歩く忠雅と泰親。


 忠雅:天女?

 泰親:あぁ

 忠雅:……お前、正気か?

 泰親:心外だな。俺を誰だと思っているんだ?

 忠雅:女好きの陰陽師

 泰親:おやおや、女好きは余計だな。俺は全ての女性に等しく親切にしたいんだ。そして、美しいものは美しい、可愛らしいものは可愛らしいと素直に言葉にしたいのだよ。わざわざ回りくどく表現するのが嫌いなだけだ。つまり、素直な男なのだよ

 忠雅:(ため息をついて)物は言いようだな。それで?

 泰親:ん?

 忠雅:その天女と俺たちがこんな山奥に来ていることと何の関係があるんだ?

 泰親:おぉ、流石、忠雅。俺の一番の友だよ

 忠雅:……お前に友なんているのか

 泰親:おやおや、これまた辛辣だ。その冷たい物言いを直せば、いくらでも女性が寄ってくるというのに。勿体ない男だ

 忠雅:今は俺のことは関係ないだろう

 泰親:あぁ、これは失敬。我が友に春の兆しが一向に見えないので心配になってな

 忠雅:……泰親

 泰親:そんなに怖い顔をするな

 忠雅:……

 泰親:あぁ、そうだった、天女様の話の続きだったね。君は、「天女がこの山にいる」と言ったら信じるかい?

 忠雅:天女なんてただの御伽噺だろ?

 泰親:おや? 魑魅魍魎は受け入れるのに天女様は御伽噺で済ますのか?

 忠雅:魑魅魍魎も受け入れたくはないが、お前に付き合っていれば必然と出くわす。この目で見て、体験したものは認めないわけにはいかないだろう

 泰親:そうか、俺のおかげか

 忠雅:いや、お前のせいだ。いつもなんだかんだと理由を付けて俺を連れ出し、面倒ごとに巻き込む

 泰親:それをわかっていながら、いつも応じてくれている君はやはり私の一番の友だよ

 忠雅:……

 泰親:おっと。君の機嫌を損ねてしまう前に話を戻そうか。君は天女の逸話については知っているね

 忠雅:あぁ、天の帝に仕える女官だろう

 泰親:そうだ。美しい女性で、天からの御使いとして地上に来るという。その身には羽衣を纏い、それが無くては天へは帰れなくなってしまうという。かつて、どこぞの無粋な男が彼女を天に帰すまいとその羽衣を隠してしまったなどという話もある。それほど、人を魅了する美しい女性だ

 忠雅:その天女がこの山と何の関係があるんだ?

 泰親:ある男の希望でね

 忠雅:ある男?

 泰親:その美しい天女様をどうしても自分のものにしたいんだそうだ。まったく、女性を口説きたいのであれば自分からその女性の元へ出向くのが筋だというのに……筋を通さぬ嫌な男だ

 忠雅:それでお前が?

 泰親:俺としては全く動く気はなかったのだがな。お師匠様に泣きつかれては、致し方あるまい

 忠雅:お前の師に?

 泰親:あぁ、朝方に残る白い月と同じ顔色をした従者がお師匠様の所に駆け込んできたらしい

 忠雅:それは……

 泰親:気の毒としか言いようがない。いるかいないもわからない者を連れて来いなんて難題を命じられたのだからな。しかも、その男が言うには何人もの従者や貴族が天女を捜しに山に入り行方をくらましているとか

 忠雅:そんな難題を言うような者は……

 泰親:(言葉を遮って)しかし、致し方あるまい。どんな貴族であっても何人たりともその男の命には逆らえないのだからな

 忠雅:……まさか、ある男とは……

 泰親:(意味ありげに微笑み)あぁ、詳しくは知らない方がいい。このことは、偉い方々しか知らないことだからな

 忠雅:……察しは付いた

 泰親:(にっこりと微笑んで)それはよかった

 忠雅:連れて帰れるのか?

 泰親:さぁ、それは天女様の意思と俺の気分次第かな

 忠雅:おい

 泰親:だってそうだろう? 自分から出向かない不誠実な男の恋路を助けてやる義理はない。だが、天女様がその話を聞いてそんな男に興味があるっていうなら話は別だ。俺が止める余地はない

 忠雅:しかし、彼女を連れて帰れなければ、お前含め多くの命が……

 泰親:おぉ、俺のことを心配してくれるのか?

 忠雅:泰親

 泰親:(微笑んで)心配せずとも大丈夫だ。俺は都一の陰陽師だぞ? いくらでも手はある

 忠雅:(ため息)泰親……お前はそういう奴だったな

 泰親:だが、お前のためならばどんな恋路も助けてやるぞ。お前は俺の友であり、俺が保証するいい男だからな

 忠雅:お前というやつは……(気配に気が付き)っ!

 泰親:(静かに微笑み)忠雅も気が付いたかな?

 忠雅:……人の気配?

 泰親:だね

 忠雅:こんな山奥に?

 泰親:そうだね。普通ならあまりあり得ることではないね。これは、天女様の気配なのか、それとも……

 忠雅:妖か?

 泰親:さぁ? ちょっと探ってみようか




●現在・山奥にある湖・昼間

   水際に入り足で水を蹴る雫とそれを見守る睡蓮。

   二人ともつぼ装束を着ている。市女笠は被らず、睡蓮が二人分の笠を持っている。


 めい:雫様、あまりは水面に近づいてはなりません。足を取られるやもしれませんよ?

  雫:めいは心配性ね。大丈夫よ!

 めい:ですが!

  雫:私は慣れているから大丈夫!

 めい:雫様!

  雫:もう、めいは怒りんぼうね。そんなに大きな声を出していたら何事かと思って人が来ちゃうわよ?

 めい:それはなりません! 雫様のお顔を誰かに見られるなど……

  雫:では、静かにしてちょうだい

 めい:ですが……あぁ、雫様、せめて笠をお被りください!


   少し離れた茂みから二人を観察する忠雅と泰親。


 泰親:(意味ありげに微笑んで)……これはこれは……

 忠雅:(息をのむ)……

 泰親:ん?

 忠雅:……天女……

 泰親:……忠雅

 忠雅:(泰親の視線に気が付き)っ! な、なんだ、泰親

 泰親:君、あの女性に惚れたね?

 忠雅:なっ!

 泰親:(忠雅の口に手を当て)こらこら、大きな声を出してはいけないよ。気が付かれてしまう

 忠雅:す、すまん

 泰親:それで?

 忠雅:は?

 泰親:君はどっちの女性に惚れたんだい?

 忠雅:(声を潜めつつ)泰親!

 泰親:おやおや、親切心だったんだがね

 忠雅:親切心?

 泰親:俺と君が恋敵にならないための確認さ

 忠雅:(顔を赤くして)っ!

 泰親:(楽しそうに微笑んで)忠雅は素直だな

 忠雅:(声を潜めつつ)うるさい! そんなことより、何故こんな所に女性が?

 泰親:そうだね

 忠雅:泰親、不思議に思わないのか?

 泰親:不思議だよ

 忠雅:やはり……

 泰親:(遮って)あんなにも美しい華が二つもこんな山奥に存在しているなんてね

 忠雅:(呆れつつ)……どこかの屋敷の姫君か?

 泰親:さぁ? 考えても仕方ないし、本人たちに聞こうか

 忠雅:お、おい!


   茂みから出ていく泰親。


 泰親:すみません

  雫:え?

 めい:っ! 雫様、めいの後ろへ

 

   めい、雫を自分の後ろに隠す。


 泰親:あぁ、驚かせてしまって申し訳ない

 めい:何者です!

 泰親:いや~、怪しい者ではありません

 めい:(サッと小刀を構えて)動くな! それ以上近づけば命の保証はありませんよ!

 泰親:おっと……美しい女性にそんな険しい顔をさせてしまうとは……申し訳ありません

 めい:……

 泰親:そんな怖い顔をしないでください。私たちは貴女方に危害を加えるつもりはありません

 めい:どうだか? 今までそう言って近づいてきた者もおりましたが、信じるに値しない者ばかりでした

 泰親:ろくでもない男がいたものです。その度に貴女が追い払っているのですか?

 めい:……えぇ。多少は腕に覚えがありますゆえ

 泰親:勇ましい女性だ

 めい:貴方では私には敵いません。早急にここを立ち去りなさい

 泰親:う~ん……私は貴女にそんな顔をさせたいわけではないのですが……

 忠雅:……それはお前が悪い……

 めい:もう一人? 何者です!

 忠雅:驚かせてしまってすまない。私は……

  雫:(顔を少しのぞかせ、忠雅の顔を見て)兄様!

 忠雅:え?

  雫:兄様!


   雫、めいの後ろから出てきて忠雅に駆け寄る。


 めい:雫様!

 忠雅:……にい……さま?

 泰親:おや? いつの間に君には妹君ができたのかな?

 忠雅:いや……

  雫:(言葉を遮って)兄様! やっと見つけました!

 めい:雫様、こちらへお戻りください! 

  雫:何故? だって、やっと兄様が見つかったのに?

 めい:その者は兄君様ではありません!

  雫:嘘!

 めい:本当です! ですから、お早く!

 忠雅:安心してください。私たちは怪しい者ではありません

 めい:そんな言葉、信じられるとでも?

 忠雅:私は忠雅、この男は泰親。共に都から来たただの人です

 めい:……都から?

 泰親:(ため息をついて)……忠雅……

 忠雅:なんだ?

 泰親:……お前というやつは本当に学ばないな

 忠雅:は?

 泰親:前にも教えただろう。簡単に自分の名前を教えるものじゃないよ

 めい:……

 忠雅:以前とは状況が違う。今回は大丈夫だろう。それに名乗らない方が失礼だ

 泰親:(ため息)

  雫:忠雅様……兄様ではない……

 忠雅:そうです。私は貴女の兄君ではありません

  雫:……そう……ですか……

 忠雅:すまない

  雫:いいえ、私が悪いのです。私が勝手に……申し訳ございません……

 忠雅:いいえ、謝らないでください

  雫:ありがとうございます

 忠雅:それで、貴女方はここで何をしていらっしゃるのですか?

 めい:……本当に敵ではないのですね

 忠雅:はい

 めい:……

  雫:めい、大丈夫よ。お二人は悪い方ではないわ

 泰親:ほぅ。私たちの言葉を信じていただけるのですね

  雫:えぇ、瞳を見ればわかる。お二人とも、とても澄んだ瞳をしている

 泰親:とのことだよ、忠雅

 忠雅:……うるさい

 めい:……

  雫:めい、その刃を下して

 めい:……ですが……

  雫:めい

 めい:(構えていた小刀を下し)……申し訳ございません

  雫:忠雅様に泰親様、先ほどは私共が無礼を働いてしまい、申し訳ございません

 忠雅:いや、こちらこそ急に声をかけてしまって申し訳なかった

  雫:名を名乗るのも遅くなってしまい、申し訳ございません。私は雫、こちらは侍女のめいです。めい、ご挨拶を

 めい:めいと申します。忠雅様、泰親様、先ほどの非礼をお許しください

 泰親:素敵なお名前ですね

  雫:ありがとうございます

 泰親:それで、貴女方は何故ここに?

  雫:私の兄を探しているのです

 めい:……

 泰親:(睡蓮を見て)……

 忠雅:先ほどもおっしゃっていましたね。やっと見つけたと

  雫:……はい。実は、この山で兄が行方不明になってしまい……

 泰親:それは……災難でしたね……

  雫:……はい……

 泰親:ですが、女の方だけでこの山に入られるのは感心しませんね。ここは危険な山です

  雫:……申し訳ございません。でも……

 めい:(遮るように)ご心配なく

  雫:めい

 めい:雫様には私が付いておりますゆえ

 忠雅:ですが……

 めい:武芸に秀でていらっしゃる貴方様ならばおわかりいただけますでしょう? 私、そこらの野党や獣には負けませんので

 泰親:これはこれは、本当に勇ましい女性だ

 めい:お褒めに預かり光栄です

  雫:めい! おやめなさい!

 忠雅:確かに、貴女はお強い方だ。それは刀を交えなくても貴女の立ち居振る舞いからわかります。ですが、貴女方が女性であることに変わりはありません。故に、私も泰親も心配なのです

 めい:……

  雫:ありがとうございます。忠雅様はお優しい方ですね

 忠雅:あ、いや、あの……

 泰親:おやおや、私もおりますよ? 雫姫?

 めい:(雫に近づこうとする泰親を睨む)っ!

 泰親:おっと、そう睨まないでください。花のように素敵な顔(かんばせ)が台無しです

 めい:……

 忠雅:泰親。めい殿、申し訳ありません

 めい:……いえ

 泰親:さてと……お二方の事情はわかりましたし、私たちはそろそろお暇しよう、忠雅

 忠雅:え?

  雫:もう、行かれるのですか?

 泰親:えぇ。山の日暮れは早い。私たちはお二人と違ってこの辺りには慣れていない。慣れない山道で迷いでもしたら大変です。今日は早めに下山しようと思います。それに、お二人の貴重な時間を私たちが邪魔をするのも申し訳ない。私たちが邪魔をしてしまったせいで、お二方の帰りまで遅くなってしまっては。夜の山はいろいろ大変でしょうから

 めい:……

  雫:泰親様、お気遣いいただきありがとうございます。では、名残惜しいですが……

 泰親:えぇ、それでは。忠雅、行くよ

 忠雅:……あぁ、では

  雫:あ、あの!

 忠雅:はい?

  雫:また会いに来ていただけますか?

 めい:っ! 

 泰親:……

 めい:雫様!

  雫:なに?

 めい:……そのような我儘、はしたのうございます

  雫:(シュンとして)……はい……

 忠雅:……また、来ます

  雫:え?

 忠雅:あ……

 泰親:……行こう、忠雅

 忠雅:あぁ


   忠雅、泰親去る。


  雫:……行ってしまわれた……

 めい:……雫様

  雫:またお会いできるかしら

 めい:……えぇ、きっと……




●現在・忠雅の屋敷・深夜

   寝ている忠雅。

   突然の大きな風の音と共に戸が開かれる。


 忠雅:っ! 

しぶき:(クスクスと笑う)

 忠雅:誰だ!

しぶき:(声のみ)み~つけった


   突如姿を現すしぶき。


 忠雅:お前は誰だ!

しぶき:(妖艶に微笑んで)そんなに邪険にしないでおくれ。私のこと、覚えてないの?

 忠雅:誰だ!

しぶき:せっかく迎えに来てあげたのに

 忠雅:迎え?

しぶき:だって約束したでしょう?

 忠雅:約束?

しぶき:無垢な私と。また会いましょうって

 忠雅:え?

しぶき:(妖艶に微笑んで)ねぇ、そんなことより、私と遊びましょう

 忠雅:……

しぶき:(忠雅にしなだれかかり)ねぇ?

 忠雅:(しぶきを振り払い)断る!

しぶき:っ!

 忠雅:失せろ、妖! ここにお前の居場所はない!

しぶき:(舌打ち)おのれ、人の子風情が……だが、お前は私からは逃れられない……

 忠雅:なに?

しぶき:お前が私に堕ちる日を楽しみにしているぞ

 忠雅:待て!


   強い風が吹き、しぶきが消える。


 忠雅:(閉じた目を開ける)っ! いない……あれは、何だったんだ……


   開かれた戸の方へと近づく忠雅。


 忠雅:ん? 床が濡れている?




●現在・翌日・山の中・昼間

   昨日と同じ道を歩く忠雅と泰親。


 泰親:それは間違いなく妖だな

 忠雅:……やはりそうか

 泰親:あぁ

 忠雅:が、何故急に妖が俺の所に?

 泰親:忠雅

 忠雅:なんだ?

 泰親:その女性は美しかったか?

 忠雅:は? 泰親、今はそんな冗談を……

 泰親:冗談ではない。大事なことだ

 忠雅:……美しいとは思えなかった

 泰親:ほぅ

 忠雅:確かに美しい姿形はしていたが、あの笑みには悪意しか感じられなかった。歪んだ笑みだ

 泰親:なるほどな

 忠雅:この問いで何がわかるんだ?

 泰親:いや、お前が純粋でよかったと心底思ったよ

 忠雅:は?

 泰親:その妖の誘いに乗っていたら今頃お前は土の中だ

 忠雅:それは……

  雫:(少し離れたとこから)忠雅様!

 忠雅:え? あれは……雫殿! 

  

   忠雅、雫の元へと駆け寄る。

   その姿を見つめる泰親。


泰親:(ため息をついて)そして、忠雅、君はまんまとあの姫君の言霊に捕まったな


   泰親、二人の元へ。


  雫:忠雅様、まさか、こんなにすぐにお会いできるなんて……嬉しいです

 忠雅:雫殿、今日も兄君をお探しに?

  雫:えぇ。もちろん、それもありますが……


   雫、忠雅の顔をむしのたれ衣の隙間から見て、スッと俯く。


 忠雅:雫殿?

  雫:いえ、なんでもありません!

 忠雅:そうですか?

  雫:でも、よく私だとお分かりになられましたね。今日は笠もかぶっているのに……

 忠雅:声で分かりました

  雫:(嬉しそうに)そうですか……

 忠雅:今日はめい殿はご一緒ではないのですか?

  雫:めいならばあの湖におります。ちょっとお小言がうるさかったので置いてきてしまいました

 泰親:これはこれは、元気なお姫様だ

  雫:泰親様、こんにちは

 泰親:こんにちは。雫姫、それでは今頃めい殿がお怒りになられているのではないですか?

  雫:……

 忠雅:それに、いくら慣れていると言っても山中です。女性一人では危ない

  雫:……申し訳ありません……

 泰親:素直なのは良き事ですね。では、忠雅。雫姫のことを頼む

 忠雅:え?

 泰親:私は先に行って、めい殿に雫姫のご無事をご報告しておこう

 忠雅:あぁ、そうだな。よろしく頼む

 泰親:あぁ。あ、そうだ、雫姫

  雫:はい?

 泰親:この男はいい男だが、男です。気を付けてくださいね

 忠雅:泰親!

 泰親:おぉ、怖い怖い。では、お先に失礼しますよ


   泰親、去る。

 

 忠雅:……あの男……

  雫:忠雅様?

 忠雅:いえ、何でもありません。あの男が言ったことは忘れてください

  雫:そ、そうですか? 

 忠雅:えぇ

   

   少しの沈黙。

  

  雫:あ、あの……

 忠雅:はい

  雫:忠雅様と泰親様は何故この山に?

 忠雅:詳しくは言えないのですが、あるお方の命で人探しを

  雫:まぁ、では、私と同じですね

 忠雅:そうですね

  雫:お二人の探し人が早く見つかるといいですね

 忠雅:……兄君の行方はまだ分からないのですか?

  雫:……えぇ。いかんせん、何も手掛かりがなくて……

 忠雅:そうですか……

  雫:せめて、私に記憶があったのなら何か手掛かりがあったのかもしれませんが……

 忠雅:記憶?

  雫:……私、一部の記憶がないのです。兄が用事があると言って家を出た日以降の記憶が何も……




●現在・山中・湖・昼間

   雫を探すめい。

  その姿は女官朝服となっており、しぶきの眷属である睡蓮の姿である。


 睡蓮:雫様! 雫様! どこにいらっしゃるのですか!

 泰親:貴女の大切なお姫様でしたら、忠雅と一緒にいますのでご安心を

 睡蓮:っ!

 泰親:こんにちは。めい殿。今日は昨日とは違う姿をされているのですね。そちらの姿もお美しい

 睡蓮:(身構えて)何故、私だと分かったのです……

 泰親:姿形を変えることは出来ても、本質は変えることは出来ない。それは、人間でも妖でも同じことです

 睡蓮:……貴方は……

 泰親:ご安心ください。貴女の主の言霊に連れてこられた男についてきた、しがない陰陽師です

 睡蓮:陰陽師! やはり、貴方はっ!

 泰親:おっと、落ち着いてください。私は貴女の敵ではありません

 睡蓮:そのような言葉、信じられようか!

 泰親:確かに、信じていただくには言葉が足りませんでしたね。『今のところは』ですが。我が友に手を出されて黙っていられるほど薄情な男ではないのでね

 睡蓮:っ……

 泰親:単刀直入に聞きます。昨日、忠雅の所に現れた妖、天降女子(あもろうなぐ)は雫姫ですね

 睡蓮:……雫様の正体までお気付きでしたか……

 泰親:えぇ。これでも、しがないですがそこそこ力のある陰陽師ですから

 睡蓮:……

 泰親:ご安心ください

 睡蓮:え?

 泰親:私はどこぞのお抱えの陰陽師のように理由も聞かずに何でもかんでも祓うほど愚かな陰陽師ではありませんから。私の大切な人たちに危害を加えない限りにおいては……ですが

 睡蓮:……泰親様……

 泰親:それで、いつからですか?

 睡蓮:え?

 泰親:雫姫、いえ、貴女の主の人格が分かれたのは

 睡蓮:……我が主の中に二つの人格があることもご存知だったのですね

 泰親:えぇ。初めて貴女方にお会いした時におおよそは。言ったでしょう? 私はそこそこ力のある陰陽師だと。姿形を変え、人格が分かれようとも本質は変わらない。変えられない。今朝、忠雅に会ったときにわかりました。あの男に残る妖の気配は雫姫が持つそれと同じだ

 睡蓮:……

 泰親:ですから、お話しください。事の真実を

 睡蓮:……我が主、雫様の人格が分かれたのは、ハク様が人間に討たれた時です

 泰親:人間に? ただの人間が妖を討つなど……

 睡蓮:ハク様は妖ではございません

 泰親:妖ではない?

 睡蓮:ハク様は天帝様に仕える方でした

 泰親:ならば、尚更人間が天人を討つなどあるはずが……

 睡蓮:天からの遣いでこの地に降りるとき、私たちは一番無防備な状態になります。ハク様も白い鳥の姿を借り、この地に降りようとしておりました。その時に、矢が身体に刺さり……おそらく、何らかの術がかけられていたのではないでしょうか。いくら無防備といえど、ただの矢であそこまでの深手は負いますまい

 泰親:……白い鳥……縁起がいいとあの男が欲しがりそうなものだ……

 睡蓮:雫様も元は天帝様に仕える女官だったお方なのです。この一件が無ければ、ハク様とお二人で仲睦まじく天上で暮らしていたはずだったのに……

 泰親:先ほどから話に出ている、ハクというのは?

 睡蓮:雫様の大切な方にございます。お二人は幼い頃から一緒で、まるで兄妹のように育ったと聞いております。お二人は本当に仲睦まじく、雫様もハク様のことを兄様と呼び慕っておりました。周囲の誰もが笑顔で見守る、そんなお二人でした

 泰親:……

 睡蓮:あの日、天帝様からの遣いでハク様がこの地上に舞い降りられました。それはそれは美しい白き鳥に姿を変えて。雫様はハク様のその鳥のお姿が大好きで、その日もお忍びでハク様の後をついて行かれたのです。そして……


   睡蓮、言葉に詰まり俯く。


 泰親:そして、偶然降り立った山で偶然狩りに来ていた無知な貴族の者たちに討たれたと

 睡蓮:……はい……

 泰親:(舌打ちをして)白き動物は天からの遣いが形を借りることがあることなど、少しでも学があればわかるだろうに。己の欲望の方が勝ったか、人の子め……

 睡蓮:……あの時、私がお止めしていればよかったのです。少しだけならと思い、雫様と共にハク様の後を追い、討たれる瞬間に立ち会わせてしまう結果となってしまいました……

 泰親:それで雫姫は絶望のあまり人間を殺め、天を追放されたのですね

 睡蓮:……はい……

 泰親:そして、その時から人格が分かれたと

 睡蓮:そうです。昼は以前のように優しく温かいお人柄に。そして、夜は……

 泰親:人を惑わす妖に

 睡蓮:……妖となった雫様はこれまでに数人の方を殺めました。殺め、その亡骸を捨て、次の日の朝になると何事もなかったようにあの無邪気な雫様へと変わるのです……

 泰親:辛いことをお話させてしまいましたね

 睡蓮:え?

 泰親:お仕えしていた方のそのような姿を語るのはお辛いでしょう

 睡蓮:……

 泰親:ですが、嘆いてばかりはいられません。雫姫が忠雅の元を訪れてしまった。それも天降女子(あもろうなぐ)として、殺める対象として。私は私の大切な友を守るために動きます

 睡蓮:……っ……

 泰親:そこで提案があります

 睡蓮:提案?

 泰親:私が雫姫の記憶を消しましょう

 睡蓮:え?

 泰親:そして、彼女が持っている力も封じます。これが何を意味するか、お分かりいただけますよね?

 睡蓮:それは……ですが、よろしいのですか? 

 泰親:言ったでしょう? 私はただ祓うだけの愚かな陰陽師ではないと

 睡蓮:……

 泰親:(少し冗談めいて)それに、大切な友に遅い春が来そうなんだ。この機会を逃すなんてことはしない

 睡蓮:……泰親様……

 泰親:急にこのようなことを昨日知り合ったばかりの者に言われて戸惑われるのは分かります。それが普通の反応でしょう。ですが、悩んでいる時間はありません。天降天女が雫姫を喰ってしまう前に事を進めなければ

 睡蓮:……

 泰親:貴女も薄々感じていたでしょう? 夜の人格が昼の人格を侵食してきていることに

 睡蓮:……私の思い過ごしではないのですね……

 泰親:えぇ、昨日、雫姫は意図していないとしても言霊を使った。そして、真名を知っている忠雅をその術で縛ったのです。故に彼は今日この山へと足を向けた。ただの人間でも言霊を使うことは出来ますが、これほどまでに強い言霊は強い力を持つ者でなくては使うことが出来ない

 睡蓮:……はい……

 泰親:この後、彼女がどう転ぶかは正直私にはわかりません。ですが、彼女の力や記憶を封印するのであれば今日しかないと思っています。これを逃せば、私は彼女を問答無用で祓うしかなくなる

 睡蓮:っ!

 泰親:決めてください。そして、私の案を受け入れ協力してくださると言うのであれば、雫姫の真名を教えてください

 睡蓮:……雫様……




●現在・山中・昼間

   木陰の岩に腰を下ろし、語らう忠雅と雫。


 忠雅:……そうだったのですね

  雫:えぇ。でも、寂しくはありません。だって、きっと兄様は帰ってきてくださる。めいも一緒にいてくれますから

 忠雅:信頼しているのですね

  雫:えぇ、二人とも私の大好きな人ですもの。だから……(急に頭痛がして)……っ!

 忠雅:雫殿! どうされました?

  雫:……だか……ら……

 忠雅:雫殿!

  雫:……だから、私が……

 忠雅:雫殿!

 泰親:忠雅、雫姫から離れろ! 動くな、しぶき!

   雫:っ!


   泰親、二人の前に現れる。後ろに睡蓮も続く。


 忠雅:泰親!

 睡蓮:しぶき様!

 泰親:……思っていたよりも進行が早かったな……

 忠雅:泰親、これは一体……

 泰親:話は後だ。(しぶきを見つめ)……君はどっちだい? 雫姫? それとも、しぶき姫かな?

しぶき:……睡蓮、私のことを話したのだな……

 睡蓮:しぶき様!

 泰親:睡蓮殿、それ以上は近づくな

 睡蓮:……

 忠雅:睡蓮? しぶき?

 泰親:この方々の真名だよ。前にも教えたことがあっただろう。知らない奴には自分の名を教えるなと

 忠雅:あぁ

 泰親:名前は一番大事なものだ。それさえわかればどんなことも出来てしまう。祝うことも呪うことも。忠雅、君は昨日、雫姫に名前を教えた。だから、彼女は君を縛ったのだ。また会えるようにと言霊で

 忠雅:そんな、まさか……

 泰親:昨晩、君の元へ訪れた妖はなんて言っていた?

 忠雅:……約束したでしょう。また会いましょうって……

 泰親:それが何よりの証拠だよ

 忠雅:しかし!

しぶき:(妖艶に微笑んで)そうだ

 忠雅:雫殿?

しぶき:貴様がこの男を守っていた陰陽師か

 泰親:あぁ

しぶき:(ちらりと睡蓮に目をやり)……なるほど、睡蓮も貴様の配下となったか

 睡蓮:……しぶき様

しぶき:裏切り者めが!

 睡蓮:っ!

しぶき:こいつら人間がハクにした仕打ちを忘れたか!

 睡蓮:忘れてなどおりません!

しぶき:ならば、何故こやつらに味方をした! お前は私の配下ではなかったのか!

 睡蓮:……

しぶき:裏切り者め!

 泰親:……これは、もう手に負えない程に変わっているな……

しぶき:なんだと?

 泰親:まだ、お気付きではないのかな? しぶき殿

しぶき:何がだ!

 泰親:……角が生えて『鬼』になりそうなほど顔が歪んでおられますよ? もう、天女でも妖でもない

しぶき:っ!

 忠雅:泰親!

 泰親:事実だ。現に彼女の顔は酷く歪んでいる。もう少ししたら、『鬼』になるだろうね

しぶき:……

 泰親:貴女がどれほど人間を憎み嫌っているかはわかる。私も貴族とやらは嫌いでね。あいつ等は自分の私利私欲のためでしか動かない。人間の皮を被ったただの獣だ

 忠雅:泰親!

 泰親:そうだろう? どう繕っても繕いきれない事実だ

しぶき:わかっているのならば、何故私を止める! 私はあいつらを許さない! 人間の皮を被った獣。いや、鬼そのものだ!

 泰親:その通りだ。貴女はそんな塵のような存在のために、その獣たちと同じ『鬼』に堕ちるのかい?

しぶき:かまわぬ! この身がどうなろうとも、私は人間を許しはしない。天を追われた時から決めていた。この身がどうなろうとも私は浅ましい獣を殺す。私にはもう生きる意味などないんだ!

 泰親:……本当にそうかい?

しぶき:何が言いたい!

 泰親:本当に生きる意味はないか? 君に帰るべき場所はないか?

しぶき:ない!

 睡蓮:……しぶき様……

しぶき:っ!

 泰親:ないか?

しぶき:……ないっ!

 忠雅:めい殿がいるではないですか!

しぶき:そいつは私を裏切り、この陰陽師の配下になった! 裏切り者だ!

 睡蓮:……

 泰親:確かに、睡蓮殿は私の式になってもらったよ。主が主でなくなってしまう前にね

しぶき:どういうことだ!

 泰親:私は今から貴女を封じる

しぶき:なにっ!

 忠雅:泰親! それは!

 泰親:落ち着け、忠雅。しぶき殿、貴女は人間を恨みすぎた。『鬼』になってしまいそうになるほどに。このままでは貴女は本当に『鬼』となってしまう

しぶき:かまわぬ! 『鬼』となってこの都中の人間を殺してくれる!

 忠雅:そうして復讐を終えた後、貴女に何が残ります!

 泰親:……忠雅

しぶき:うるさい!

 忠雅:貴女のことを大切に思っていてくれた人の思いはどうなるのですか?

しぶき:っ!

 忠雅:貴女を愛してくれた人の思いはどうなるのですか

しぶき:うるさい、うるさい!

 忠雅:雫殿


   忠雅、しぶきに近づく。


 泰親:忠雅!

しぶき:っ! 近づくな!


   しぶき、長く伸びる爪で忠雅の手を振り払う。

   その爪が忠雅の手の甲に当たり血が出る。


 忠雅:っ!

しぶき:あっ……

 忠雅:……雫殿

しぶき:……

 忠雅:貴女の瞳は澄んでいる

しぶき:え?

 忠雅:とても綺麗な瞳です

しぶき:うるさい! 私に近づくな!

 忠雅:本当は悔いていたのではないですか? 天の者として、人の命を奪ってしまったことを

しぶき:……う、うるさい!……私は……私はっ!

 忠雅:……

しぶき:……わかっていた……こんなことをしてもあの人が帰ってこないことは……わかっていたの……でも、憎む心は止められなくて……この気持ちをどうしたらいいかわからなくて……

 忠雅:……雫殿

しぶき:……陰陽師殿

 泰親:何かな?

しぶき:私を祓ってください

 忠雅:雫殿!

しぶき:貴方ならできますよね?

 泰親:あぁ

 忠雅:泰親!

しぶき:であれば……

 泰親:(遮って)だが、祓いはしない

しぶき:え?

 泰親:貴女は多くの人間を殺めた。祓って、はい終わり、なんてことできない

 忠雅:おい!

しぶき:……では、『鬼』になれと?

 泰親:それも違う。貴女には生きていただく

しぶき:え?

 泰親:消えて終わりにするなんて、私は優しくはないのだよ

しぶき:でも、私は……

 泰親:貴女にはこれからただの人として生きてもらう。その力も記憶も全て封じてね

しぶき:え?

 泰親:殺めた人間の未来を背負ってその命を全うする。それが貴女が償うべき方法だ

しぶき:そんなこと!

 泰親:出来るのですよ。私はちょっと凄い陰陽師なのでね

しぶき:……

 泰親:不安になることはない。貴女の記憶も力も封じた後は、ここにいる忠雅に任せる。こいつはいい男だ。どう転んだって良い方向へと向かう

 忠雅:おい、泰親!

 泰親:それだけ信用しているということだよ

 忠雅:……物は言いようだな

しぶき:……良いのでしょうか……そんな優しい罰で……

 泰親:優しくなんてないよ。貴女が一番嫌っている種となって生きるのだから

しぶき:……それでも……

 泰親:いいのではないかな? そもそも、貴女は一度天帝から大きな罰をいただいている。ならば、これよりも重い罰はいらない。それに、そもそもは人間の欲が招いたことだ

 忠雅:そうだな……

しぶき:……ありがとうございます……

 睡蓮:……しぶき様

しぶき:……睡蓮……

 睡蓮:申し訳ございません

しぶき:何故謝るの?

 睡蓮:私がもっとしっかりしていれば……

しぶき:睡蓮のせいじゃないわ。だから、謝らないで。謝らなければならないのは私の方

 睡蓮:しぶき様!

しぶき:今までありがとう、睡蓮。辛い思いをさせてしまってごめんなさい

 睡蓮:……ありがとうございました


   しぶき、泰親に向き直る。


しぶき:……陰陽師殿

 泰親:あぁ

 忠雅:雫殿

しぶき:はい

 忠雅:次に目が覚めた時には知らぬ空間にいて戸惑われるかもしれない。でも、安心してください。私が守ります。貴女の大切な方々の分まで

しぶき:……ありがとうございます、忠雅様……

 泰親:……では、いくよ?

しぶき:……はい……




●現在・数日後・忠雅の屋敷・夜

   縁側に出て酒を飲む二人。


 泰親:今宵は良い月だな

 忠雅:そうだな

 泰親:それで?

 忠雅:なんだ?

 泰親:その後、雫姫とはどんな感じだ?

 忠雅:(酒を吹き出す)

 泰親:おっと、汚いぞ、忠雅

 忠雅:妙なことを聞くお前が悪い!

 泰親:はて? 俺はただ雫姫の様子を聞いただけだが?

 忠雅:……

 泰親:睨むな睨むな。いい男が台無しだぞ?

 忠雅:俺で遊ぶな!

 泰親:……それで、どうなのだい?

 忠雅:この屋敷にも慣れ始めた頃だろう。睡蓮殿もいてくれているしな

 泰親:そうか。それにしても、君の屋敷は本当に心が広い者ばかりだな

 忠雅:もともと、父上も母上も変わり者だからな

 泰親:確かに。俺の師と楽しく魑魅魍魎の話をしている時点でそうだな

 忠雅:あぁ。周りの者からは時々苦言を呈されるが……助かっている

 泰親:雫姫や睡蓮殿のことを何の躊躇いもなく受け入れてくれた時は正直驚いたよ

 忠雅:あぁ、それには正直俺も驚いた

 泰親:まぁ、堅物の息子が綺麗な姫君を連れてきたとあれば諸手を上げて喜びもするか

 忠雅:泰親!

 泰親:おいおい、忠雅、夜だぞ? 声の大きさに気を付けなければ

 忠雅:あぁ、すまない……

 泰親:(おかしそうに笑う)

 忠雅:泰親?

 泰親:いや、君が本当にいい男でよかったと思ってな

 忠雅:どういうことだ?

 泰親:そう言うことだよ

 忠雅:……わからん……

 泰親:お前はそのままでいてくれ

 忠雅:あ、あぁ……

 泰親:そんな友に一つだけ助言をやろう

 忠雅:なんだ?

 泰親:いいと思った女の手は離すなよ。気を抜けば、天に帰ってしまうかもしれん

 忠雅:(顔を赤くして)泰親!

 泰親:(楽し気に笑う)



―幕―






2021.09.22 ボイコネにて投稿

2022.01.11 加筆修正・HP投稿

お借りしている画像サイト様:フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)

紅く色づく季節

こちらは紅山楓のシナリオを投稿しております。 ご使用の際は、『シナリオの使用について』をお読みくださいませ。 どうぞ、よろしくお願いいたします!

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